【ショートショート】世界のにっぽんふかし話
【鶴の恩返し】
おじいさんが鶴を助けた晩にやってきた娘。
「私が機織りをしているところを絶対に見ないでください」
絶対だぞ。
思わせぶりにおじいさんおばあさんに約束をさせて、その晩から機織りを始めた娘。
やがて織り上がった反物は、町でとても高価で売れたのでした。
とても喜ぶふたりを見て、満足そうにそれからも機織りを続ける娘。
しかしながら一反織り上がるたびに、日に日に娘はやつれていくのでした。
「心配だな(棒)」
「心配ですね(棒)」
と心配するおじいさんとおばあさんでしたが、約束は約束なので娘が機織りをしている姿は、絶対に見ないようにしていました。
そんなある日、疲労困憊した娘が思い余って二人に詰め寄るのでした。
「なんで覗き見しないんですか!? てゆーか、絶対に察してますよね!!?」
「「さあ、なんのことやら……?」」
肩をすくめたふたりは、「いやもう無理!」「恩返しは十分しましたよね!?」と必死にかき口説く娘を、再び機織り部屋へ放り込むのでした。
とんぴんと。
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【一寸法師】
針の刀で鬼を退治した一寸法師に向かって、姫は鬼が落としていった打ち出の小槌を振りました。
「大きくなあれ」
その途端、一寸法師の体はどんどんと大きくなり、普通の人間と同じサイズとなったのです。
「姫様、私と結婚してください!」
これで誰はばかることなく姫と付き合える。そう喜び勇んで求婚をした一寸法師でしたが――。
「……あ~っ……」
大きくなった一寸法師を前にして、微妙な表情でもにょる姫。
まあなんというか……。お人形サイズだと可愛らしいと思えた一寸法師ですが、これがそのまま原寸大になると、いろいろと現実が見えて――鬼の粘膜で体中が臭いとか、意外とブ男だとか、あばたが多いとか、普通サイズになっても背は小さいほうだとか――密かに幻滅した姫がいたのでした。
このふたりがどうなったかは、それは皆さんのご想像にお任せします。
とんぴんと。
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【サンタクロース】
今日はクリスマス。
良い子のもとへサンタクロースが来る日である。
ワクワクしながら待っていた少女のキッズケータイが鳴った。
「もしもし、お母さん? お仕事終わったの?」
そう疑いなく口にした少女の耳に返ってきた言葉は――。
「あたしメリーサンタさん。いまフィンランドにいるの……」
「……え゛」
♪ Holy Night Horror Night♪
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【うさぎとかめ】
「もしもしカメよカメさんよ。世界のうちでお前ほど、歩みののろい者はない。どうしてそんなにのろいのか」
ということで、向こうの山の一本杉のところまでウサギとカメとが競争をすることになりました。
スタートと同時に全力で一本杉目指して一直線に走り出すウサギ。
「――楽勝だな」
だが、次の瞬間周囲を警戒していなかったウサギに向かって、コヨーテが襲い掛かってきたのです。
「ぎゃああああああああっ!?!」
慌てて逃げようと蛇行するウサギ。それをしつこく追い続けるコヨーテ。
そうして這う這うの体でようやくコヨーテの追撃を躱せたウサギが、もとのコースに戻って一本杉を目指そうとしたところ、カメがすでに半分の道のりを走破しているのを目にして、ウサギは再び一目散にゴールを目指しました。
ですがコヨーテにつけられた傷から流れる血のにおいを嗅ぎつけたピューマが、ウサギ目指して猛然と襲い掛かってきたのです。
「ぐあああああああああああああああっ!!」
必死に逃走しようとしたウサギでしたが、序盤の全力疾走とコヨーテからの逃走劇で体力を使い果たし、あえなくピューマに狩られてしまったのでした。
そうして、首の骨を折られたウサギがピューマに運ばれていく姿を横目で眺めながら、ゆっくりと安全に、危なくなったら甲羅に隠れてやり過ごし、無事に一本杉へゴールできたカメ。
「こんな勝負意味あったのかなぁ?」
と一本杉の根元で首を傾げるのでした。
とんぴんと。
9/5 レビューをいただきました。感謝感激です!