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おれの目の前には、ボサボサな銀髪の少年が座り込んでいる。
目は、薄汚れた銀色の髪に隠れているけど、端正な顔立ちだ。年上のお姉さんが喜びそうなショタ。
悲鳴が聞こえたから、つい咄嗟に助けてしまった。
雄叫びを上げながら突進してこない所を見るに、きっと魔物ではない現地の異世界人なのだろう。
第一村人発見!!
「大丈夫か?」
おれは座り込んだまま動かない少年に手を差し伸べる。
「ひっっ!!」
しかし、その少年は怯えてしまった。
目の前でおれが犬の魔物の首を落としたからだろうか?
おれは年上のお兄さん精神を発揮して、少年を和ませてみようとした。
ピコピコ、ピコピコ
おれは耳をピコピコさせる。
少年は怯えている。
おれは耳をピコピコさせる。
少年はおれが何もしないと思ったのか、恐る恐るおれを見た。
「ふふふ…。」
少年は笑った。
どうやらピコピコエルフ耳がツボにハマったようだ。この耳は素晴らしい。ピコピコ動くし、遠くの音まで拾える。
銀髪の少年はゆっくりとおれの手を掴んだ。
「ひっ!」
少年が息を飲む。目の前の少年も気付いたようだ。
おれたちの周りをさっき倒した犬の魔物が取り囲んでいる。仲間だろうか?
おれは、おれの手を握ってる少年を見て、いいことを思い付いた。
おれは半年間、湖の森で魔法の練習をしてきた。おれが森を出た理由は魔物が増えてきたこともそうだが、誰かにこの魔法の力を見せつけたかったからだ。
そして目の前にちょうど都合よさそうなのがいる。
よし、こいつにおれの力を見せつけよう!!
今のおれはエルフの魔法使いだ。力を見せつける以上、さっきまでの男口調は似合わない。神秘的なエルフの雰囲気を出すためにも、言葉遣いには気をつけなければ……。
「君、私の魔法をよく見ておきなさい。」
おれは神秘的で威厳溢れるエルフをできるだけイメージしながら声をつくった。
「え?」
少年が声を漏らした瞬間、全ての犬の魔物の首が飛んだ。
おれは逆光や風の向きを意識して、少年に横顔を見せる。
長い金髪が風になびいた。
「す、すごい……!!」
やはりおれは凄いらしい。少年が目を輝かせておれを見ている。
あぁ、今まで誰かに、ここまで尊敬されたことがあっただろうか?これ、癖になるなぁ。
名残惜しいが、おれは気になっていることを銀髪の少年に聞いてみた。
「ところで、君は何故こんな場所にいるんです?ここはかなり街道から離れてますよ。」
おれは神秘的なエルフモードを続ける。
「そ、それは……」
「ゆっくりでもいいので話して見てください。」
しばらくして、少年はゆっくりと話し始めた。
少年はこの先の村に住んでいたらしい。
少年の村がある、この辺りは国の中でも特に辺境で、魔物の被害が多いようだ。だから、村の住人は自分たちで柵をつくったり、魔物を間引いたりして村を守ってきたらしい。
ところが、ここ最近になって魔物の被害が少なくなってきたらしく、最初は喜んでいた村人達だったが、次第に何か不吉なことが起こる前触れなのではないか、という考えが村中に広がっていった。
そこで、この銀髪の少年が生け贄として森に投げ出されたらしい。
この少年は捨て子だったようだ。村の近くで発見されて、保護された。
しかし、この少年の異質な銀色の髪を村人達は快く思わなかったそうだ。
一度拾ってきてしまった手前、自分たちでまた捨てるのは、やりたくなかったらしい。
少年は村で生きることを許された。ただし、奴隷のような立場として。
今まで悲惨な目に合ってきたようだ。
いじめの様な振る舞いを知って、おれは不愉快になった。
そうして、村に戻ることも許されず、この少年は森をさ迷っていたというわけだ。
銀髪の少年の手は確かに痩せ細っている。まともな食事も与えられていなかったようだ。
少年は泣きながら話してくれた。
おれは少年の手を握り、背中をさすりながら泣き止むのを待つ。
しばらくして、少年は泣き止んだ。
「それで、君はこれからどうするの?」
「え、えっと……。」
少年にもこれからどうすればいいか、わからないらしい。
村を追い出されて、行く宛もない。痩せ細った子供がひとり。
おれは、また泣きそうになる少年に提案してみた。
「君、よければ町まで一緒に行く?」
「え?いいんですか?」
少年は驚いた顔で聞き返えす。
おれはこの少年を一度助けてしまったのだ。手を出した以上、最後まで手を貸そうと思った。それに、なんだかほっとけないし。
おれは神秘的なエルフの雰囲気を纏って、銀髪の少年に優しく問い掛けた。
「君、名前は?」
しかし、少年の歯切れは悪い。
「えっと、その……僕、名前………ないんだ……。」
「今まで何て呼ばれてたの?」
おれが質問すると、少年の顔が途端に暗くなる。
「今までは……おい……とか…………お前……とか…………奴隷……とかって………呼ばれてた………。」
どうやら、この少年に名前はないらしい。
ならおれが付けてあげよう。この子の銀髪、おれはカッコいいと思うけど、この子はあんまり好きじゃなさそうだ。………全く関係ない言葉を使おう。
おれには願望がある。今のおれは風魔法と水魔法しか使えない。しかも、水魔法は水を生み出せないから水場が近くにないと役に立たない。
だが、いつかやってみたいのだ。……全属性の魔法使い。
この子の名前に願掛けをしよう。いつか、おれが全属性使えますように……と。使う単語は属性…………attribute………そこから……え~と……よし!!
「アテリー。」
「え?」
「今日から君の名前はアテリーだ。」
おれがそう言うと、少年はまた泣いてしまった。
「その名前、気に入ってくれた?」
「うん……うんっ!!」
おれが問い掛けると銀髪の少年─アテリーは泣きながら返事をする。
おれの願掛けだけど喜んでそうだし、いいよねっ。
おれは再びアテリーの手を握りながら、泣き止むまで背中をさするのだった。
泣き止んだアテリーはおれに聞いてくる。
「えっと、お姉さんは何ていうの?」
ふむ、おれの名前か……。前世の名前を異世界に来てまで名乗りたくはないなぁ……。
おれは目をつぶる。
そして、再び目を開けた。
最初に目に付いたのは……葉っぱだ。葉っぱはleaf……よし、リーフィリアにしよう。うん、いい感じ。
おれの名前は……
「森の魔女、リーフィリアよ。」
さらっと魔法使いから魔女に格上げする。
「リーフィリアさん。」
アテリーがおれの新しい名前を噛み締めるように呟く。
「リーフィリアさん!!」
アテリーが出会ってから一番大きな声でおれを呼んだ。
「なに?」
「僕に名前をくれて、ありがとうございます。」
おれは少しキョトンとしてしまったが、すぐに笑ってしまった。
「ハハハ。どういたしまして。」
少し神秘的なエルフモードが崩れて、自が出てしまったが別にいいだろう。
目の前で満面の笑みを浮かべ、うれしさを表現するアテリーを見ていたら、今はそんなことどうでもよくなった。
でも、力を見せつけるときは特に徹底して、神秘的な森の魔女っ子エルフを演じよう。その方がカッコよさそうだ。
「さて、そろそろ町に向かおうか。」
「歩いていくんですか?」
「いいや、こうするのさ。」
おれはアテリーの手を握ったまま飛行魔法を発動する。二人で飛ぶのは初めてだから、いざというとき手を繋いだままの方がいい。
「うわわわわわ!!」
アテリーは空を飛んだことがないのか、とても驚いている。
おれも初めて魔法で空を飛んだときはあんな感じだったのかなぁ。
おれは暖かい目でアテリーを見つめた。
おや、さっきまで髪に隠れて見えなかった目が、今は風にあおられて、はっきりと見える。青い瞳だ。おれの瞳は緑よりの青で、アテリーの瞳は赤の真逆ってほどに、ど真ん中の青だ。
アテリーは初めて見るであろう遠くの景色に目を輝かせている。
よ~し!町まで、ひとっ飛びだ。
しばらく飛んでいると、大きな街道がいくつも見えてきた。
お!街道の先に立派な城壁が見える。めんどくさいからそのまま町に入ってしまおう。
おれとアテリーが上空から城壁を越えようとすると……
下から大きな声が響いた。
「お前達!!そこで止まれ!!」
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