見栄
それはきっと見栄だったんだろう。
この町はかつて私がいたステマリウス公爵領にある。だから仮にも元ステマリウス公爵令嬢だった私が解決するべきだと思った。
だから私は奮闘した。
早く町をなんとかしてあげないと。
なんで私がこんなことしなくちゃいけないの?
農作物も少しずつ色が黒っぽくなってきた。もう時間がない!!
それは他人事に思える。
それに気付いたのは路銀を完全に使い果たした頃だった。
「ナターシャ、ここは貴女にとってあまりよくないんじゃない?最近無理しすぎよ。」
サリアが私を心配した。
「もうお金もないし、この町を出ましょう。幸い私達は戦えるから商会の護衛に雇ってもらうことができたわ。」
それでも私はこの町を……
「明日は町を出て商会の護衛をしながら移動しましょう。」
「……わかった。」
その申し出に私は安堵した。町の状況は何一つ変わらず、日に日に農作物は枯れているというのに。
その時気づいた。私は町の問題に取り組むことで前に進んでいると思いたかったのだ。ここはステマリウス公爵領。元ステマリウス公爵令嬢の私が手を貸しても不自然じゃないと自分に言い聞かせてた。
本当はステマリウスなんてどうだっていい。何年も前に追い出された家だ。愛着なんて湧きようがない。
何でもいい。何かに取り組むことで目を背けたかった。
オリビア先生の死から。
先生の死体は結局見つからなかったけど、あの悲惨なヴァンパイアとの戦闘跡を見てしまった。そして先生は戻らなかった。その事実を受け入れたくなくて私は……
「あなたは何がしたいの?」
「え?」
サリアが真剣な顔で聞いてくる。
「本当にこの町を助けたいの?」
私は即答できなかった。私は何がしたいんだろう?
結局全て流れてしまった。実家へ帰ることも農作物が枯れている原因を突き止めることも全て。しかし、私にはそれが心地よかった。
私はずっと流されるまま。ラムルスの魔法部隊長なんて流れ着いた先に過ぎなかった。
民家が吹き飛ばされ、私は黒いバケモノに見つかってしまう。
急接近してきた黒いバケモノ─『紫雷の魔神』がその爪を振り下ろしてきた。ここまでの接近を許してしまえば魔法での防御は間に合わない。
ガギン!
そのまま私を貫くはずだった鋭利な爪は目の前に入り込んだ影によって防がれていた。動けなかった私に代わってその爪を弾いたのは……
「アレグラス!!」
フォレスティア森調騎士アレグラス・ローレイフ。彼はナターシャにとって、かつての社交界で少し仲がよかった程度の関係だった。
「無事かい?ナターシャ!!」
しかし、この戦いが始まる前に再開し婚約者なってくれと言ってきた。
「はぁぁぁぁ!!」
グリフォンに乗ったアレグラスは手に持つハルバードに風を纏わせて『紫雷の魔神』を吹き飛ばす。
「貴方、無事だったのね。」
「ああ。君から返事を貰ってないのに簡単には死ねないよ。」
グリフォンから降りたアレグラスはナターシャの手を取って立ち上がらせた。
「このままでは危ない。私のグリフォンに乗ってくれ。」
「いいの?」
「誰も咎める者なんていないさ。」
私はアレグラスの手を借りて、グリフォンの背にまたがった。これがグリフォン、結構フサフサ。
グリフォンはフォレスティア森調騎士のみ騎乗することを許された星獣。当然ナターシャは今まで触れたことがなかった。
「グァァァ」
グリフォンの毛並みに感動していると、アレグラスに吹き飛ばされた『紫雷の魔神』が瓦礫から這い出してきた。
「一体どうやったら倒せるのよ。」
ナターシャの魔法攻撃は『紫雷の魔神』の動きを止めることは出来ても、決定打にはならない。
「核だ。」
「え?」
「あの悪魔を構成している核を潰せば倒せるだろう。」
「その核はどこにあるの?」
私は後ろに乗っているアレグラスに尋ねた。
「魔物と同じなら胸にあると思うけど……」
しかし、会話の途中で『紫雷の魔神』が口から電撃を放ってきた。
「ッ!!しっかり掴まって!!」
アレグラスが咄嗟にグリフォンを操って上空へ回避するが、『紫雷の魔神』も追いかけるように飛んでくる。
「もっと上に逃げないの?」
地面に近い距離を維持しているアレグラスに私は尋ねた。
「あまり上に行くとヤツの標的になる。」
「ヤツ?」
アレグラスの視線の先には悠々と空を陣取っている巨大な悪魔がいた。その大きさは今追いかけてきている『紫雷の魔神』の5倍以上はある。
「どうするの?」
「ヤツの相手は無理だ。私達は今追いかけてきている悪魔を倒そう。」
「わかったわ。」
アレグラスはグリフォンを旋回させて『紫雷の魔神』の背後を取った。それに対して『紫雷の魔神』はこちらに顔を向けて電撃ブレスを放つ。
「えい!!」
私は土魔法で前方に煙幕を発生させた。電撃ブレスは土魔法の煙幕に当たると急速に威力が落ちていく。
「やっぱり形や規模は変わっても五大属性魔法の力関係は変わらないのね。」
先程まで『紫雷の魔神』と一人で戦っていたナターシャは、その事実を如実に感じていた。
煙幕によって『紫雷の魔神』はナターシャとアレグラスの位置を見失う。
「はぁ!!」
二人の乗ったグリフォンは『紫雷の魔神』を背後から奇襲すると、アレグラスのハルバードが『紫雷の魔神』の胸を貫いた。
「よし!!」
「やった!!」
アレグラスとナターシャは揃って歓声を上げる。胸を貫かれた『紫雷の魔神』は身体を崩しながら落下していった。
「これでようよく一体なのよね。」
ナターシャが疲れたようにため息をつく。空から見るとまだあちこちで戦闘の狼煙が上がっていた。
「ナターシャのお陰で隙を突けたよ。ありがとう。」
後ろに座っているアレグラスがナターシャを支えて労う。ナターシャも満更ではない表情でアレグラスを見つめ……
「え?」
鋭いナニカがアレグラスの胸を貫いていた。
アレグラスの鮮血がナターシャの顔にかかる。
その後ろには先程の意趣返しとばかりに、『紫雷の魔神』がアレグラスの胸を鋭い爪で貫いていた。
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