落ちた木の葉
銀髪の少年─アテリー。
虎耳の姉妹─トト・ココ。
リーフィリアがその3人を置いて飛び立つ半日前………。
ラムルスの町──
「王都から遥々、ラムルスの町まで、よく来たな!!」
ラムルスの町、領主宅の一室でラムルスの町の領主─フロン・ダーゼルムが客人を歓待した。
「久しいな、フロン。」
領主であるフロンは辺境伯という地位に就いている。そんなフロンに慣れ親しい声を掛けるのは、目の前に座る大男だ。
その大男は、フォレスティア森調騎士団長──
「アムルトス。……グランドタウンの攻略以来だな。」
アムルトス・パールピアである。
「ああ、そうだな。領主勤務の忙しいお前は知らなかっただろうが、そのグランドタウン、先が見つかったそうだ。」
「……そうなのか?」
「行ってみたいが、今はそれどころではなさそうだ。」
「そうだな。」
執務室が静かになる。
「もうすぐ、奴らが攻めてくるんだろう?」
領主─フロンが静寂を破った。
「遅くとも、今週中には来るはずだ。」
「この町の戦力だけで凌げるだろうか?」
「わからんが、氷憂─ジルグヴェルトの奴も次期にやって来る。奴らの一方的な展開にはならんだろう。」
「まだ到着していないのか?」
「なんでも、このタイミングを狙って王都を騒がす輩が出てくると睨んだらしい。」
テーブルの紅茶で口を湿らせたブロンが言う。
「地方からの援軍はあと3日で到着するだろう。」
「……3日。随分かかるな。」
「グランディア聖盾騎士帝国が攻めてくるまで、まだ時間があると高を括っているんだ。」
「我が国は足並みが揃っている、とは言えんな……。」
フォレスティア森調騎士団長─アムルトスがため息をつきながら言った。
一息付いて、彼が領主─フロンに尋ねる。
「ところで……襲撃してきたというヴァンパイアはどうなった?」
その問い掛けにフロンが顔を暗くする。
「そのヴァンパイアだが、暴れた後、町を去って行った。」
「そいつの目的はなんだ?」
「ギルムによると、リーフィリアと言うエルフを探していたらしい。」
「リーフィリア……知ってる奴か?」
「ああ………。先日まで、この町にいた。」
「今は?」
「ヴァンパイアの襲撃以降は、見ていない。」
その言葉にアムルトスが考え込んだ。
「襲撃と共に消えたエルフ………か。」
「………リーフィリア殿は金色の髪に碧眼の瞳を持っていた。」
「なんだとっ!?その特徴は話に聞く、エルフの王族そのものではないか!!」
「そこに、あのヴァンパイアが狙っている理由があるのかもな………。」
「そう言えば、ギルムはどうしてる?ここの兵士部隊長を務めていると聞いたが。……ヴァンパイアと交戦したんだろ?」
部屋の空気が更に重たくなる。
「………ギルムは片腕をなくし、数多の死者が出た。」
「…………。」
「……これから、さらに大勢死ぬんだろうな。」
旧友との再開を、手放しで喜べる状況ではなかった。
▲▽▲▽▲▽▲▽
ラムルスの町を一人の女性が歩いている。町の住人は、そんな彼女を羨望の眼差しで見つめていた。
緑を基調とした美しい鎧……フォレスティア森調騎士団に所属する騎士だ。
唯一の女性騎士である彼女は、大勢から晒される視線に慣れているのか、気圧されることなく歩き続ける。
その女性騎士は、目的地である一軒家の前で立ち止まった。
「師匠~!!いますか~!!」
しかし、家からの返事はない。
「もし、も~し!!入りますね~!!」
騎士の女性は、家の扉を開けてズカズカと中に入って行った。
「………まったく、勝手に入ってくるなんて、躾がなってないさね。」
そんな彼女の前に、家主である女のエルフが出迎えた。
「フィオナ師匠~!!お久しぶりです!!」
彼女は鎧を身に付けたまま、エルフの師匠─フィオナに抱き着く。
「久しぶりさね、グラヴォリカ。……鎧が痛いから離れてくれるかい?」
「すいません!!感激のあまり……つい!!」
フォレスティア森調騎士団唯一の女性騎士─グラヴォリカは鎧を着ていたことを思いだし、師匠であるフィオナから、すぐに離れた。
「よく来たね、グラヴォリカ。奥で話を聞かせてくれるかい?」
「はい!!」
グラヴォリカはフィオナの後に続いて、奥の部屋へと入っていった。
「元気でやっているようで、安心したよ。」
弟子であるグラヴォリカの近況報告を聞いた、師匠─フィオナは紅茶を飲んで、安堵の息を漏らす。
「師匠も元気そうで、なによりです!!この機会に、王都で一緒に暮らしましょうよ~!!」
フィオナは困った顔をして、グラヴォリカを見つめた。
「この町には、あの子がいるさね。」
「……ナターシャさん、でしたっけ?」
「そうさね。」
「なら、ナターシャさんも王都で暮らせばいいのに。」
「あの子にはあの子で、王都に行きたくない理由があるってことさね。」
フィオナはカップの中の紅茶を覗き込んだ。
バン!!
「すいません!!お邪魔します!!」
突然、家の扉が勢いよく開かれる。
幼さの抜けきらない声をした少女が、家の中に入ってきた。
「許可も無しにいきなり入って来るなんて!!」
「それをお前さんが言うかね。」
二人の前に、金髪よりの茶髪を持ったメイドの少女が現れた。
「私!!セリアって言います。私をもっと強くしてください!!」
▲▽▲▽▲▽▲▽
「セリアったら、一体どこに行ったの?」
ラムルスの町、魔法部隊長─ナターシャとメイドのサリアは、居なくなっていたセリアを探して町を歩いていた。
「ナターシャ様、セリアが帰ってきたら話をしましょう。」
ナターシャの隣で佇むサリアが、そう提案する。
「ダメよ。あんなことがあったばかりなのに……。ひとりになんて、させられないわ。」
ナターシャは頑なに、再三に渡って行われた提案を却下した。
「でしたら、手分けして探しましょう。見つけたら、連絡石で知らせるということで。」
「わかったわ。」
ナターシャはメイドのサリアと分かれて、セリアの捜索を再開するのだった。
「君はもしかして………ナターシャ・ステマリウス……かい?」
ナターシャは一人の男に声を掛けられた。
振り向くと、その男は見事な鎧を身に纏っており………
「騎士?」
「そうだ。私はフォレスティア森調騎士─アレグラス・ローレイフ。伯爵家の出の者だよ。」
その言葉に、ナターシャの目が見開かれた。
「やはり、君はナターシャなんだね。」
「…………。」
ナターシャは知らず知らずの内に後ずさる。
そんなナターシャの様子を見た、騎士─アレグラスは安心させるように言った。
「あの時のことを、とやかく言いたい訳じゃないんだ。ただ、少し君と話がしたい。」
「………私はもう、ステマリウス家の人間じゃないわ。」
「……話をしてくれないだろうか?」
アレグラスは真剣な表情でナターシャに問い掛ける。
そんな、表情に押されてナターシャはその申し出を受けた。
広場のベンチに騎士と魔法部隊長が並んで腰を掛けている。
「……………。」
「……………。」
「君が元気そうで良かったよ。」
騎士─アレグラス・ローレイフが先に沈黙を破った。
「今まで、どんな人生を歩んできたんだい?」
「私は………。」
魔法部隊長─ナターシャ・ステマリウス………ナターシャは言葉を選ぶように考えながら答えた。
ステマリウス家を追い出されて、エルフの先生─オリビアに助けられたこと。
先生から魔法を学び、色々な場所を巡ったこと。
先生を亡くしたこと。
先生が助けた姉妹と暮らしたこと。
巡り巡って、ラムルスの町で魔法部隊長となったこと。
ナターシャはポツポツと語った。
そして、騎士─アレグラスはその独白を黙って聞いていた。
「そう、だったのか……。」
話し終えたナターシャにアレグラスが答える。
「どうして、私の前からいなくなってしまったんだい?」
「どうしてって……私は家を追い出されたのよ。」
「それでも、一言ほしかった。」
「私が会いに行ったら、貴方の外聞が悪くなるでしょう。」
「………その時だけは、私の外聞なんて気にしてほしくなかった。」
アレグラスはナターシャの目を見て答える。
「私は君の力になりたかった。」
「どうして?私は第2皇子の婚約者だったのよ。」
「君の事が好きだったんだ。」
「え?」
「だから、今度こそ離したくない。グランディア聖盾騎士帝国を退けたら、私と結婚してほしい。」
アレグラスはナターシャに、長年秘める想いを伝えた。
風が吹き、木の葉が落ちる。
『総員に告ぐ!!遠方にグランディア聖盾騎士帝国軍を確認。直ちに、城壁の上にて待機せよ!!』
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