密命
「あわわわわわわ。」
瓦礫の山の上に立つおれを厳つい人たちが取り囲んでいる。
完全武装の衛兵集団。
彼らはどこか困惑した表情でおれを見ていた。
おれがエルフだから皆さん困っているのかな?ならばここは潔く退散するとしましょうか。
「ごほん。」
おれはわざとらしく咳払いをしてから、瓦礫の山を降りる。
ちなみに、おれは大勢の前で話す事が出来ない。緊張して萎縮してしまうのだ。
だが、今のおれは一味違う。大勢の前で話す事が出来ないなら、出来るようになる仮面を被ればいい。
そう、神秘的なエルフモードという仮面を……。
「道に迷ってしまったわ。それでは皆さん、ごきげんよう。」
おれは踵を返してこの場を去る……
しかし、衛兵に回り込まれた!!
「ご同行を。」
厳つい衛兵が迫ってくる。
「に、任意ですよね?」
はたして君たちの実力で、このおれをご同行させられるかなぁ~?(ゲス顔)
「いいや、悪いけど任意じゃないよ。」
ビュォォォー
後ろから、声と共に凄まじい冷気がおれを襲った。
「確かに貴女の力は凄まじい。だけど、この距離なら僕の剣の方が速いよ。」
いつの間にか、おれの首には蒼白い刀身が添えられていた。
「騎士団の大部隊が遠征を行うなら、王都で好き勝手する人達が出てくるだろうとは思っていた。だから、僕だけ後から合流することにしたんだけどね。」
恐る恐る振り向くと、そこにいたのは蒼髪の美青年。そして、首に当てられた刀身。
「ご同行を。」
やべ、ちょっとチビった。
おれは今、詰所に連行されている。
おれの周囲を取り囲む完全武装の衛兵。
物珍しさに見に来る人々。
おれと付かず離れずの距離を維持する蒼いイケメン。
そして、おれの財布をスッた盗人も衛兵に抱えられている。おれの結界に捕まり、瓦礫でもみくちゃにされた事で、まだ目を覚まさない。
おれ被害者なのに………。
これで詰所のお世話になるのは二回目。
嫌なんだよなぁ、コレ。放課後の職員室に呼ばれるくらい嫌。
おれは詰所に投入されて、事情聴取。
件の盗人は近くの椅子の上で寝かされている。やったおれが言うのもなんだけど、きちんとした治療を受けさせなくていいの?
すると、目の前の蒼いイケメンはおれの疑問を読み取ったのか、答える。
「彼女は瓦礫に揉まれながらも、致命傷は全て避けていた。治療の必要はないよ。」
なんでよりにもよって、このイケメンが聞き取り役なんだよ?おれのこと、チビらせやがって!!下着とか履いてないから、服に染みるんだぞ。
そんなおれを余所に、イケメンは聞き取りを始めた。
「名前は?」
「名乗ってほしかったら、先にそっちが名乗りなさい。」
こんなイケメン野郎は爆発しねぇかなぁ~?
「それもそうだね。」
蒼いイケメンは朗らかに笑った。
「僕の名前はジルグヴェルトだよ。ジルグヴェルト・ロスト・メラコリヌ。」
名字とかこの世界に来てから初めて聞いた。
「随分長いのね。貴族?」
「あぁ。僕はメラコリヌ家の長男で、日々家督を継ぐ為に奮闘中さ。」
へー。
「さぁ、次は貴女の番ですよ。」
「森の魔女、リーフィリアよ。」
「森の………魔女……ですか。」
蒼いイケメン─ジルグヴェルトは目を細めて聞いてきた。
「貴女が名乗る『魔女』という言葉は、受け継いだ物ですか?」
受け継ぐ………はっ!!なんかカッコいいな。それ、も~らい。
「そうよ。偉大な我が師から受け継いだ大切な言葉。」
本当は師も糞もねーけど、ここは異世界。もう少し設定を詳しくしてもいい。
「なるほど……ならば貴女がこの国へ舞い降りたのは何かしらの『密命』を帯びたが故……という訳ですか?」
目の前のイケメンは正直いけ好かないが、おれの設定を深くしてくれるようだ。
「あら?あなたは………知っているのね?」
「えぇ。メラコリヌ家に引き継がれる『記憶』を見ましたから。」
適当に口走ったら、なんか返してきた。ちなみに、おれは何も知らんぞ。
「『記憶』を見たの?よく無事だったわね。」
人間の人格って記憶で構成されているらしいから、他人の記憶と混ざったら大変な事になりそう。
「えぇ、危うく自分を失いかけましたが……なんとか自分を保ちましたよ。」
ふーん。そもそも記憶って見れるもんなの?
すると、ジルグヴェルトは佇まいを整えて、真剣な顔をした。
「それで、貴女の『密命』とは?」
密命?そんなもんねーよ。
「あなたに明かすことは出来ないわ。」
しかし、おれは止まらない。適当な事をいけ好かないイケメンに口走るの、楽しぃ~~。
「……………。」
怒らせたか?やり過ぎた?
「今はまだ………ね。」
その言葉を聞いたジルグヴェルトは少し表情を和らげた。
「『今は』……ということは、いずれ明かしてもらえると受け取っても?」
「そうね。………いずれ……よ。」
ジルグヴェルトは納得してくれたようだ。あんまりやり過ぎるのも良くないな。
「あの貧困街での騒動も貴女の『密命』と関係があるのですか?」
有耶無耶には出来なかったかーー。適当な設定の応酬で忘れてくれてると思ったのにぃ。
それにしても貧困街ねぇ。確かに色々ボロかったからなぁ。
「いや……それは関係ない。」
<<ここで関係あるとか言っちゃうと、設定に矛盾が生まれちゃうかもしれないからねぇ~(^o^)>>
「何?この声?」
今朝もあったな、こんな声。一体全体なんやねん?
「声?」
ジルグヴェルトには聞こえないらしい。
「いや……なんでもない。」
「そうですか。では、話を戻しますが『密命』でないとするならば、何故あのような事を?」
おれは椅子で寝ているフードを被った子供を見た。
「あの子に財布を盗られちゃってね、取り返そうとしてたのよ。」
「スリですか。」
「ええ。でも、中々すばしっこくて捕まえるのに手間取ったわ。」
「『密命』でないのなら、破壊した建物は弁償か修理してもらえますか?」
くっそ!!何もない『密命』と関係あるって言っとけばよかったぜ。
<<後悔は先に立たなかったねぇ~(^o^)>>
うっさい!!
「うぅぅ。」
今まで寝ていた、件の盗人が目を覚ました。
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