完全勝利
「ねぇ、おじさん。」
檻の中に捕らわれている銀髪の少年─アテリーは見張りの男に声をかけた。
「なんだ?坊主。」
「手が痛いんだけど、これ外してくれない?」
アテリーは両手を拘束している手枷を男に見せる。
「それはダメだ。アベルさんが全員に付けるよう指示を出している。」
アベル─この建物の中に人々を拘束している男だ。
「どうして?この檻に入れておくだけで十分だと思うけど。」
「それは『封魔の枷』と言われるもので、嵌められた者は魔法が使えなくなる。」
「僕、魔法なんて使えないよ。」
「坊主はそうかもしれんが、こっちにそれを見分ける術がないからな。」
「……それもそうだよね。」
アテリーはその場で仰向けに寝転んだ。
「ところで、おじさんはなんでこんな事してるの?真っ当に働けばいいのに。」
アテリーは見張りの男を見上げる。
「そんな純心な目を向けてくるな。俺には金が必要で、この仕事は稼げる。……ただそれだけだ。」
「ふ~ん。」
男はそれだけ言うと檻の前から去っていった。
「ダメだったナ、アテリー。」
獣耳の少女─トトがアテリーに近寄りながら言う。
「そう言えばさ、トトは最初にどうして僕が魔法を使おうとしたことが分かったの?」
僕は目が覚めてからすぐに、魔法を使おうとして、それをトトに見抜かれたのだ。結果は『封魔の枷』により何も起こらなかったが。
トトは獣耳をピクピクさせて答えてくれた。
「トトは臭いで分かル。まほー使おうトする人からハ、まほー使うゾーみたいな臭いがすル。」
「便利な鼻だねぇ。」
アテリーはトトの様々な臭いを感知できる鼻に感心した。
「ちなみニ、相手がどこ狙ってるカも分かル!!」
「へぇ~。今さらだけど、トトはどうして捕まったの?その鼻があれば無敵じゃない?」
疑問に思った僕にトトは誤魔化すように笑いながら……
「食べ物あげるって言われテ、食べたらここにいタ。」
「……………。」
「ココは狩りに出掛けてタから、いなかっタ。」
「狩り?」
「持ってソうなヤツを見つけテ、かっさらウのダ!!」
「?」
「多いときハ、キンピカなヤツが5枚くらい入ってル。」
「もしかして、人のお金を盗むの?」
「ソレが我らノ生きカタ!!」
「……そうなんだ。」
違いすぎる生き方にアテリーは戸惑いを隠せない。
「でも、盗むのって危険じゃない?」
「狩りにキケンは付きモノ。」
「……………。」
そう言い切られると僕は何も言えなくなった。
結局、何も出来ずに時間だけが流れてゆく………。
ん?やけに外が騒がしいな。
檻の外から見張り達の声が聞こえてくる。
「くそっ!!なんなんだ、あいつらは!!」
「やつらが暴れてるお陰で、衛兵共がこの区画になだれ込んで来てるぞ!!」
それも、結構切羽詰まってる声だ。
「どうしたんだろう?」
「遂にヤツらもネングの納めドキ。」
隣のトトがわくわくしながら檻の外を見ていた。
ついでに尻尾もブンブン振ってる。
獣みたいな耳を持ってたけど、尻尾もあったんだ。
「仕方ない。今すぐここから引き上げるぞ!!」
このグループを取り纏めている商人─アベルが大声で指示を出した。
見張りの男達が捕らえた人達を閉じ込めた檻に魔力を流し始める。
アテリーとトトの入っている檻を含めて、全ての檻が浮遊した。
「おお!!トト、空とんでル!!」
僕はこれとは比較にならない飛行体験をリーフィリアさんにさせてもらったので特に驚かない。
「馬車に詰め込め!!」
僕たちの檻は馬車の真っ暗な荷台に詰め込まれて、何も見えなくなった。
「おお!!ナニも見えんぞヨ!!」
隣で騒ぐトトを見て、アテリーは落ち着く。
結構前から檻に入れられてるらしいけど、トトは元気だなぁ。
そんな事を考えていたら、馬車は出発した。
▽▲▽▲▽▲▽▲
「待てーー!!」
おれは今、魔法で空を飛び、件のぬすっとを追いかけていた。
しかし、未だに捕まえられない。
転生して魔法チートを得たこのおれが捕まえられない理由は主に三つ。
一つ目
この辺りは王都の中心道から離れている。中心道に近い建物はきれいに整列されて並んでいるが、離れた建物はかなり乱雑な配置なのだ。
二つ目
おれは俗に言うお上りさんである。だから王都にあまり詳しくない。しかし、件のぬすっとは、かなり詳しいようで、乱雑な建物を利用されて一気に距離を離される。
三つ目
民家を含めて数多くの建物があるため、魔法でフルパワーを出すわけにはいかないのだ。そんなことをしたら、辺り一面吹き飛ばしてしまうだろう。
そんなこんなで未だ捕まらず。
おれはぬすっとを魔法で捕らえようとするが、勘がいいのか、即座に建物の影に隠れてやり過ごされる。
そのせいで、もう既に家が何個か潰れている。
だが、おれは諦めるわけにはいない!!
「そこだぁぁぁ!!」
当然のように避けるぬすっと。
あ、また家潰した。
こうなったら仕方がない。新技を披露する時が来た!!
「はぁ!!」
おれは辺り一帯を青い結界で覆った。
球体バリアの応用で、できるかもって思い、試したら出来たのだ。
後は結界の範囲を徐々に狭めていく。
いくつかの建物が巻き添えになってしまったが、被害の少ない方だろう。
なんか言われたら、魔法で前よりもスゴいやつを建て直せばいいだけだし。
狭まった結界によって、結界の中には建物の瓦礫が圧迫している。
そんな瓦礫の中から満身創痍のぬすっとが這い出してきた。
ぬすっとは瓦礫の山の上で力尽き、倒れる。
それを見たおれ、結界解除。
ぬすっとに近づいて、財布を回収。
おれの完全勝利!!
「どうだ、アテリーこれがおれの実力だ!!これからはアテリーのくせにおれをメス墜ちさせようなどと、変なことを考えるんじゃないぞ!!」
おれは神秘的なエルフモードという設定も忘れて、ウイニングコールをする。
しかし、そこにアテリーはいなかった。
代わりに居たのは………
「動くな!!完全に包囲されている!!」
完全武装の衛兵だった。
衛兵は瓦礫の山の上に佇んでいるおれをぐるっと囲んでいる。
「ほぇ?」
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