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今日も雨だった。

作者: 白石みのり

今日、この学校から旅立っていく生徒達は期待に満ちた顔や少し寂しそうな顔をして登校してくる。毎年毎年見るが、残念に思うのは、今日が雨だということだけだ……


春の雨はすぐに荒れやすい。何か不吉なような気分がする。


けれども、もう一年以上前から決まっていた日時は変えようが無いため致し方ない。


「遥先生!」


後ろを振り向くと教え子の神木さんが立っていた。


「どうしたの?」


廊下の窓に雨粒と早咲きの桜の花びらが一緒に吹き付けている。


「先生!あの、その、今までありがとうございました」

深々とお辞儀をすると少し赤く染まった目元にはまた涙がたまっている。


スカートを強く握ってるのは彼女なりに涙を出さないための努力なのだろうか。


「そんなに大層なことはしてないよ」


私は静かに笑って校庭側の窓に目をやった。

神木さんは、元々不登校気味だった。高校生で不登校だとあまり他の先生も手を出したくないのだ。


それは、義務教育じゃないから。でも、私はほっとけなかった。折角高校生になって、家にいるんだけなんてもったいない、そう思った。



でも、私の学生時代を思い出すと悲惨だ。それは私が、いじめっ子だったからだ……


あの頃は、弱そうな子を見下すことでしか、自己を保つことができなくて自分が嫌になったこともなかった。


気付いたらみんながやってくれるし、誰も拒否なんてしなかった。


この世は私中心で回っているかのような感覚にだって陥っていた。でもそれは、一瞬の幻想でしかなかった。


ひどい仕打ちというのかそれとも回り回って自分に帰って来たのか?わからないが、あるクラスメイトが告発をした。それからの周りの反応は違った。


昨日まで、あんなに尽くしてくれていた人もいつの間にかにいなくなって今度は私がいじめられるようになった。


そこで初めて知った。尽くしてくれる人は、友達とは違うことに。相手は自分の鏡と言われていることに。情けなかったがしょうがなくもあった。


あれから早20年が経とうとしてる。


あの時神木さんを助けたのは、逆の立場の神木さんが少し羨ましかったのかもしれない。


けれども、今ここに立ってるのは自分の懺悔でもある。もし私みたいな愚かな人がいたら私が教訓として止めないといけないと思ったから。でも、そんなことをしていても水にはいつまでも流れないのだ。


「先生?」


不思議そうな顔をする神木さんに何でもないと苦笑しながらも、今日だけは、この春の雨で私を綺麗にしてほしいと願うのは私のエゴなのだろうか。と考えていた。

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