不気味な放置自転車
私は海沿いの町に住んでいます。
海沿いといっても工業地帯なので海水浴ができるような場所ではなく人通りも多くありません。私はその風景が好きで毎日散歩をしていました。
ある日私は散歩の途中で放置自転車を見つけました。地面に寝かされて見るからに捨ててあるという感じです。
別に珍しいことではありません。この辺りは盗まれた自転車が乗り捨てられていることがよくありました。ただその自転車はサイクリング趣味の人が乗るようなクロスバイクだったので高価な自転車が捨ててあると珍しく思っただけでした。
何日かすると、放置自転車には張り紙がされていました。だれか連絡したんだと思います。市役所の名前が入った文章で2週間後に回収するというモノでした。
しかし、その自転車は2週間どころか1か月経っても撤去されませんでした。
数か月後、張り紙の内容は変わっていました。
『所有権を放棄した自転車です。どなたが持ち帰っても構いません』
こんな文面を初めて見ました。張り紙には市のマークと市役所の電話番号が書かれていたので誰かのイタズラではないと思います。きっと何日かすれば誰かが持って帰るだろう。だけど自転車はなくなりませんでした。最初に見た時と同じように横倒しのままです。もしかしたら捨てられてから今まで誰も触れてすらいないのかもしれません。
それから少し経ち、張り紙の内容は更に変わっていました。
『この自転車を持ち帰った方には謝礼金(2万円)を差し上げます』
持って帰れるだけでも不自然なのに更に謝礼金が出るなんて……。
奇妙な貼り紙です。何か裏があるなと思いました。
しかしその時の私は少しだけお金に困っていたのでその自転車を引き取ろうと決心しました。引きとる事になんとなく後ろめたい気分だった私は夜中、その自転車を回収する事にしました。
夜中の海はいつも以上に静かでした。
まずは倒れた自転車を起こそう。そう思いハンドルに手を伸ばそうとして私は触れる直前その手を引っ込めました。ハエです。それも一匹や二匹ではない、大量のハエが自転車にたかっていました。
朝見た時、こんな風では決してありませんでした。それにただの自転車にたかる量とも思えません。
まるでなにかの死骸にでもたかっているようだ。
そう思ったとたん今まで感じたことのない不気味さが全身にのぼってきました。
この自転車が今まで回収されることもなくそのままなのは何故だろう。
もしかしてみんな今の私のように不気味な何かを感じて手を引いたのかもしれない。
私はそれ以上自転車に触れずその場から去りました。
あなたはこの自転車に興味がありますか?
今自転車の張り紙は謝礼金(5万円)に変わっています。自転車はまだそこにあります。
読んでいただきありがとうございます。
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