第9話 最後の上位契約
18時を迎える前にわたしは腕を捧げてフェンリルに分離してもらって散らばってもらった。
わたしはあえて宿屋の外でクジャンが来るのを待つことにした。
フェンリルは500匹ほどに分離してもらっている。態勢は万全だ。
わたしは目を捧げて千里眼を発動させた。
前方からスケルトンの大群が歩いて来る。メフィストフェレス、数えて
<<2850です。リズ様>>
「意外と少ないじゃない」と、わたしはフェンリルたちを連れて近づく。
赤毛のクジャン、勇者クジャンは先頭にいる。
「やあ、リズ。」と、クジャンは笑う。
「ほんとに来てくれたのね」と、わたしは正直に言う。
「まあね、全員浄化してくれんだろ?」
「そうなるといいけど。フェンリル」と、わたしはスケルトンたちにフェンリルを差し向けてみた。
腕や足を壊すも、地面に骨が散らばって、さらに不死者は数を増やして行く。そう、散らばった分だけ。最初の行動だけで、数は4倍にまで膨れ上がった。うふふ、わたしが逆に後手に回るなんて。スケルトンの1人がわたしのそばに近づいてくる。
「ジャック」と、わたしはカボチャ顔のお化けを見る。ジャックはランタンを持ってスケルトンを照らしてくれている。スケルトンの1人が光の粒子になって消えて行く。
わたしは目を開ける。周囲は暗い夜のまま。わたしはすでに囲まれている。わたしの周囲にはスケルトンたちの赤い眼光。メフィストフェレス、ジャックのランタンの灯りを大きくするには?
<<リズ様の身体を捧げて、ランタンに行くように命じてください>>
「フェンリル、わたしの身体を全部食べて。その全てをジャックのランタンに」500に分かれたフェンリルたちが順番にわたしを食べて行く。わたしの身体は500匹目によってちょうど消滅する。
また目が最初に再生される。ジャックのランタンの灯りが大きくなる。
スケルトンたちが次から次へと浄化されて行く。光の粒子へ戻って行く。メフィストフェレス、もう1度数えて。
<<ゼロです。リズ様。リリスとの上位契約が成立しました。リリスは脳を捧げてください。黒い輪っかが頭上に浮かび上がります。>>
わたしは早速脳を捧げてみる。頭の中で蜘蛛たちが暴れている。うふふ。
わたしの頭上に黒い輪っかが浮かび上がった。同時に千里眼も発動する。何これ?
クジャンが近くに来ていた。
「リズ、綺麗になったね」と、クジャンは目を細めて笑う。
「恥ずかしくないの、そんな台詞を言って」と、わたしはクジャンを見つめる。
「オレっちはクジャン・ドルアード。これからもリズって呼んでいい?」
「リースと呼ばせてあげる。あなたには」
「リース、いい響きだね」と、クジャンはわたしの肩を引き寄せる。
「心臓、もらうわね」と、わたしの左手はクジャンの胸を貫いた。
「これもプロポーズなのかな」と、クジャンは笑う。
「痛みの感覚がクジャンも壊れているの?」
「たぶんね」と、クジャンは笑う。
<<嫉妬する相手の心臓を壊した事でリヴァイアサンとの上位契約が成立しました。リヴァイアサンは腸を捧げてください。それで好きな時に召喚できます。フェンリルのように>>
わたしは背中の肩甲骨は変形して、4枚の黒い翼に。
「やっぱりプロポーズだったね」と、クジャンはわたしに口づけをしようと顔を近づけてくる。
「バカ」と、わたしはクジャンの胸を貫いたまま目を閉じた。
<<上位契約は全て成立しました。黒き扉が開きます>>
足元に巨大な幾何学模様の魔法陣が出現する。わたしとクジャンとジャックは吸い込まれて行く。
わたしはそっとクジャンの胸から腕を抜く。クジャンの胸は不死者らしく元へ戻る。
全ては揃った。わたしは兄さんを生き返らせるのだろうか。