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第8話 わたしを愛してくれる勇者クジャン

わたしはヴァールハイトという島へ来た。わたしの住んでいる島から南へ500キロほど下ったところにある島に来ている。勇者クジャンと呼ばれる人物がいるらしい。今は丘の上にいる。坂をくだれば街が見える。今まではジャックの灯りを頼りにしていたが、目を捧げて、<<千里眼>>というモノを発動できると知った。夜の闇の中をわたしだけが、明るい視界を手に入れている。そう、今は夜だ。夜なのに、わたしと同い年ぐらいの少年がやってくるのも見える。あれがクジャンだろうか。

わたしはゴーレム(土の人形)を造り続ける。これで108体目だ。ちょうど108体目が完成した。

「今、助けるよ」と、少年は言う。わたしを助ける?わたしは108体目の魔力耐性を下げた。

少年の剣は108体目のゴーレムを見事に砕いた。

「お、おおおおおおおおおおおおお」と、少年は勝利の雄叫びを上げているのだろうか?

「オレっち、クジャン!勇者をやっているんだ」と、赤髪の少年、勇者クジャンは言う。

わたしはにっこり微笑み「そう。探していたの・・・母さんの足跡を」

「え?母さん?」

「ううん。いずれ話すわ」と、わたしはクジャンから目を離して遠くを見る。

「そ、そうなんだ。たしか初対面だよね」と、クジャンは聞く。

「ええ、そうね。私はリズ。そう呼んでくれると嬉しいわ」

「リズ。短い名だね・・・はは、新しい魔王と親戚だったりしないよね」と、クジャンは聞いてくる。

「新しい魔王?」誰のことかしら。

「そう、リスティア・ウィズ・クラインって言うらしいよ。何でも港町ベルナトスの住民を全滅させたとか。聞いた事ない?」

「そう」わたしは魔王として世界に認識されてしまったのね

「ごめん。冗談だよ」

「いいえ、いいのよ。よく言われるから」

「そうなのか。ところで町に行くなら案内するよ。町の名はステア。いい町なんだ」と、クジャンは言う。

「お願い」と、わたしは頼む。

わたしはクジャンに砕かれたゴーレムを大地に潜らせる。

「リズ、地面なんかさわって何しているの?」

「ちょっとね・・・母さんの足跡でも落ちてないかなって」

「もしかして君の母さんがここに来たの?」

「ええ、そう聞いているわ。調べるのに時間がかかったけどね。」


「ヴァルス・ウィズ・クライン・・・。リスティア・ウィズ・クラインの母親もここへ来ていたんだよ。その日は今と同じように宵闇のカーテンが起きたんだ。たぶん、オレッちの直感だけど。リスティア・ウィズ・クラインはここに来ていると思うんだ」

「・・・もし・・・もしもリスティア・ウィズ・クラインを見つけたらどうするの?勇者クジャンとして戦い、倒すの?」と、わたしは聞いてみる。

「もしも出会えたら握手でもしてもらいたいかな。何でも同い年でオレッちにしてみればヒーローのような存在だからさ」

「え?ヒーロー?どうして?」

「リズは何も知らないんだな。オレッちたちの住んでいるステアの町ではリスティア・ウィズ・クラインはヒーローさ。ヴァルスを殺してくれたんだろ?だったらヒーローさ」

「どういうこと?」

「ヴァルスが魔女と呼ばれていたのは知っているだろ?ヴァルスは町の人を自分の魔術の実験にたくさん殺したのさ。オレッちの母さんもその時死んだかな。父さんはヴァルスの実験で魔王と上位契約を結び、不死になった。不死の呪いに耐えれなくて、オレッちに呪いを譲って死んだ。だからオレッちも不死なのさ。魔物なんて全然怖くない。それでヴァールハイトの魔物たちを倒していたら勇者だなんて呼ばれだしてさ」

「そう。そうだったのね。」と、わたしは顎に手を当てる。

「どうした?考え事?」と、クジャンは聞いてくる。

「え。ええ、それよりクジャン。あなたはどうして夜なのに、まるで昼間のように歩けるの」と、わたしは聞いてみた。

「不死の呪いのせいかな。たぶん、そうだよ」

「わたしが目をつぶったまま歩くのも不思議じゃないの?」

「うーん、目が見えないけど魔力探知でも使用しているのかな。たしか千里眼って呼ばれている・・・でも伝説だけどそういう能力もあるって言うし」と、クジャンは笑う。

「クジャン、あなたはどこまで」

「君はリスティア・ウィズ・クラインじゃないの?」

「ばれていたの?」と、わたしはクジャンの顔を見る。目をつぶったまま。

「うん。まあ、そうかな。ほらほら、そんな話よりステアに着いたよ。まずは宿屋に案内するね」と、クジャンは右方向を指さして言う。右側に宿屋の看板が見えていた。

「宿を紹介してくれるの。ありがとう」と、わたしは正体をばれた事を流されて作り笑顔をする。

「え?あの宿じゃ嫌なの?リズ」

「そ・・・そんな事は無いわ。急にどうしたの?」

「だって作り笑いなんかするから」

「ああ、そうなのね」

「ほら、やっぱり作り笑いをする」と、クジャンは言う。

「正直に話して。わたしを危険人物だと思わないの?わたしは母さんと同じ実験をするとか」

「最初に言ったよね。オレッちは憧れているって。できれば握手して欲しいんだけど。お願いできるかな。そ、ほんと、握手だけでいいんだ。あ、もう玄関だよ。ここに泊まる?」と、クジャンは言う。

「泊まるわ」と、わたしは初めて宿を見た。宿の名前はエンペラークジャンと書かれていた。エンペラークジャン?偶然一緒なのだろうか。わたしは目をつぶったまま、

「クジャンは?」と、聞いてみる。

「オレっちは自分の家に戻るよ」と、赤毛の少年、クジャンはわたしにスルーされた事で下を向く。

わたしはクジャンの手を握り、引っ張って耳元に囁く。

「わたしはステアに残っている人たちを食べるわよ。殺すなら今よ」

「それって告白?リズって面白いね。じゃあ、また明日」と、クジャンは坂を下りていく。

なんでわたしあんなことを。止めて欲しかったの、ううん。嫌われたかった。そうね、今までずっと孤独だったもの。いえ、おばさんやベレッカという仲間はできたけど。うふふ、何、わたしらしくない?わたしって何?告白?わたしは町の人を殺すって宣言したのよ、どうして面白いのよ。どうして去って行くの?分からないわ、クジャン・・・わたしはクジャンの背中を見つめて見えなくなるまで目をつぶったまま見送ってしまった。それから宿屋エンペラークジャンに入る。宿屋の主人はスケルトンだった。

不死者がお店番?え?どういうこと?

この町は・・・もしかしてもう・・・母さんが滅ぼしてしまっているというの。この町で生き残っているのはクジャンだけなの?わたしはスケルトンに挨拶がてらに頭だけ下げた。すると「お客様、お部屋へ案内します」と、わたしの前を歩き出した。白いエプロンをつけている事から生前は女性だったのかもしれないし、コックだったのかもしれない。わたしは3階の寝室に案内された。

次の日の朝、クジャンはわたしの寝室に来ていた。

「いい度胸ね」と、わたしはクジャンに言う。

クジャンは目を細めて「殺人宣言をするリズの方がいい度胸だと思うけど?」

「何よ、女性の寝室に無断で入って来るなんて。どういうつもりなの?」

「リズの寝顔をどうしても拝見したくなってさ。それでちょっと早起きして来てしまったわけ」

「・・・それで寝顔を見てどうだったの?」

「かわいかった。想像していた以上に。とても。」

「・・・・・・本気で言っているの?」

「すごく」

「恥ずかしいわ」と、わたしは立ち上がり、寝室を後にする。

「あ、ちょっとリズ」と、クジャンは追いかけて来る。

宿屋の置時計は8時を現していた。昨日の宿屋の店番のスケルトンが跪いている。

「お客様、お食事の用意ができました。2階へお越しください」と、スケルトンは言う。

「わかったわ」と、わたしは2階への階段に向かう。

「どうだった?」と、クジャンが後ろから聞いてくる。

「何の事?」

「オレッちの母さん」

「え?」

「ほら、お食事の用意ができましたって言ってたスケルトンさ」

「え、えええ。あ、あの人がお母様なの」

「まあね。もっと言えばここはオレッちの家だった場所さ」

「そうなんだ。それでお食事って何が出てくるの?」

「オレッちが狩りで狩ってきた魔物の心臓。どう?おいしそうでしょ」

「・・・まあ、見るだけ見るわ」わたしは2階に降りると食堂という看板に従って、食堂に入った。

「!!」わたしは驚いた。昨日、ゴーレムを作るために土に血で描いた魔法陣が切り抜かれてテーブルにおいてあった。ざっと10はある。

「なかなか倒しがいのある人形さんだったよ」と、クジャンは笑顔だ。

「そう、気に入ってもらえて嬉しいわ」と、クジャンを睨む。

「うわわわ・・・今度は何だよ。そんな怖い顔をして」と、クジャンは言う。

「あら。そう見えた?」

「見えるよ」

「あなたに惚れたのかもしれないわよ」と、わたしはほほ笑む。

「また作り笑いをする」

「悪かったわね。じゃあ怖い顔をしましょうか」

「リズ」と、クジャンはわたしの首筋に腕を回して、わたしのおでこにキスをした。

「な、何を。何をしているのよ」と、わたしは目をつぶり、叫ぶ。

「今日はちゃんと赤い目で見てくれる」と、クジャンはわたしを見つめて言う。

「それが何だと」と、わたしはクジャンを見る。

「好きってことさ」と、クジャンはわたしに背を向ける。

わたしは思わず抱きついてしまう。昨日追いかけた背中に。わたしこそ何をしているのだろう。

「わたしも好きだと言ったら」

「オレッちと戦うんだろ?リズ。返事はその時でいいか」

「何言っているのよ、先に言ったのはあなたでしょ、クジャン」

「ああ、オレッちはリズが大好きだ。愛しているかもしれない」

「バカ」

「リズ、オレッちと戦うんだろ?」

「・・・・・・ええ。そうしないとわたしは魔王と契約できないから」と、クジャンを見る。

「禁断の書の事も調べたんだ。魔王の書、持っているんだろ?メフィストフェレスにでも聞いてみて。リリスに不安を喰われてしまった不死者を浄化する事もリリスとの上位契約に入るかって。それとリズはオレッちに嫉妬できているかって」クジャンはとても興味深いことを話した。

「わかったわ」メフィストフェレス、魔王リリスに不安を喰われた者は不死者、アンデットになるの?

<<その通りです、リズ様。浄化できるなら上位契約にもなります>>と、メフィストフェレスの言葉がお互いの脳に響く。

「へへ。やっぱり・・じゃあ、今夜またここで会おう、リズ。戦う時は「バカ」以外の言葉を用意しておいてくれよ」と、クジャンはわたしの頭を自分の胸に押し付ける。気分が高鳴る。わたしは嬉しさを感じている?そして自由に生きているクジャンにわたしは嫉妬している。

<<リズ様はクジャンに嫉妬しています>>

「バッチリだよ、リズ。それじゃ、今夜ここで。置時計が18時を告げる時に来るよ」

クジャンは去って行く。背中をわたしはまた背中を見ている。その背中が見えなくなるまでわたしは見送っってしまった。

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