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第7話 お母さん、リズです

 わたしは空を飛んで、ジャックと一緒に西に450キロ離れている大陸ムースに辿り着いた。大陸に上陸するやいなや、トカゲ顔の怪物、リザードマンたちの群れが暗闇の中であるにもかかわらず集まって来る。だが、敵意は感じない。それどころか、跪いてわたしにこうべを垂れる。

「ヴァルス女王と同じ波動を感じます。いえ、それ以上の」と、先頭にいた片目のリザードマンが下を向いたまま話す。わたしは早速心臓を捧げた。口から血が逆流し、吐血する。血は蜘蛛となりて、すぐ戻って行く。

わたしは深呼吸をしてから

<<わたしの名はリスティア・ウィズ・クライン。ヴァルス・・・母の元へ案内しなさい>>と、リザードマンたちへ命じた。

リザードマンたちは道を開けて、先頭にいた片目のリザードマンが案内を始めた。このまま歩いて行けば母に会えるのか。うん、城が見えるな。はは、それではつまらない。父さんを、わたしたちを売った恨みをこめて、倍返しにしてやらないと。

だが、どうすればいい。どうすれば。

あーそうか。そうだ。母をこちらへ来させればいい。

<<いや、母の元へ伝令を・・・「お母さん、リズです」そう伝えて。城をイメージして・・・転移魔法陣を使わせてあげる>>

片目のリザードマンは跪いて頷く。わたしは親指を捧げて、ルキフグスの転移魔法陣を発動させた。わたしも同じ座標に転移するためにもう片方の親指も捧げる。親指は蜘蛛となりて、すぐ元へ戻る。ルキフグスの転移魔法陣は発動され、わたしとジャックは夜の城へ。青い大きな扉の前で片目のリザードマンが待っている廊下に転移した。

<<ここに母、ヴァルスがいるのか>>と、わたしは声を脳裏に響かせる。片目のリザードマンと扉の向こうにいる母ヴァルスに。

片目のリザードマンはジャックに照らされて、「はい」と、短く答えた。

扉の向こうから、いや、扉はあっさり開かれた。青いネグリジェを着ていて、乱れた黒い髪、赤い目?

「ひ、いやぁあああああああああああああああああ」と、母は叫んでいる。顔を押さえている。かと思えば、右手で何かを払いのけるように振り払っている。「来ないで、来ないで」


わたしはただ近づく。

「・・・・・・」無言のままにっこりと笑う。目を細めて。

「何よ、何勝った気でいるのよ。今まで行った事のある場所へ転移する魔法があったわ。たしか146ページに。ラ・ディル・クーレ」と、母ヴァルスは唱えた。何も起きない。母が持っている物は青い表紙の本だ。メフィストフェレス、あれは何だ?

<<魔導の書でございます、リズ様>>

「ひ、ひぃいいいいいいい。魔王、魔王が2人もいるぅぅううううううう」と、母ヴァルスは後ずさって行く。メフィストフェレス、魔導の書はどうやって魔術を唱えるのだ?

<<魔王の書を使用できるリズ様がいてこそ使用できます。魔導の書の持ち主は魔王の書の使用者に逆らう事はできません>>魔導の書のページを追加する事は?

「嘘よ。うそよーーー。ラ・ディル・クーレ」と、母ヴァルスはもう一度唱える。

<<もちろんできますとも>>

「リズ、私はあなたの母なのよ。さあ、そこをどきなさい」

母の持つ青い表紙の本が、金色に輝く。魔導の書の白紙のページがいちばん後ろに追加される。

赤い文字で何か言葉が出てくる。

その文字は短かった。


『お母さん、リズです』


「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああ」母ヴァルスは声の限り叫んだ。魔導の書を投げ捨て、枕を投げて、シーツをはがして投げて、昨日飲んだコーヒーのティーカップも投げた。ヴァルスは膝を抱えてうずくまる。身体が震えている。涙を流している。

メフィストフェレス、許可を出す事は?

<<できますとも>>

「風。風の魔法で飛んで逃げてやるわ。ラ・ヴォレー」と、母ヴァルスは叫ぶ。風が足元から巻き上がる。

母ヴァルスの顔に笑顔が戻る。わたしが許可を出したとも知らずに。

「はっはー最後の最後でしくじったようね。さようなら、リズ」と、母ヴァルスは右手で窓を開けて、身体を乗り出して屋根の上に立って、風に身を任せて飛翔する。わたしはそれを見届けてから、500mほど上空に転移先を設定する。わたしは回復した親指をまた捧げて、ルキフグスの転移魔法陣を発動させた。

母ヴァルスが下からわたしの高さまで上がって来る。母ヴァルスの顔は青ざめていた。母の好きな青色だ。

<<お母さん、リズです>>と、脳に響かせる。

母ヴァルスは動くのをやめてしまったのか、動かない。

フェンリル、やって。腕を上げるから。わたしの右腕と左腕は食べられる。蜘蛛がぶわっと広がり、皮膚となりて腕となる。

「フェンリル」わたしは名前だけ呼び上げる。

母ヴァルスの顔が、黒い狼に喰われて消えた。指令塔である頭を失い、落ちていく身体は城の屋根で待ち構えていたフェンリルの大きな口に飲み込まれて消えた。


<<ベルゼブブとの上位契約が成立しました。ベルゼブブを使用すると背中に黒い翼が生えます。4枚の翼が。ベルゼブブも姿を現しません。>>と、メフィストフェレスの声が脳に響く。


「・・・ジャック・・・わたし間違っているのかな」と、兄さんの魂が宿ったジャックを見る。

カボチャ顔のお化けは笑っている。

いや、そういう顔なだけか。わたしはジャックの顔を見ながら静かに泣いた。


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