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第5話 居酒屋トールハンマ

叫ぶ声、逃げまどう声、馬車の駆け行く音。


わたしは港町ベルナトスの門をくぐり抜けて町に入った。途端に港町ベルナトスは夜になる。


露店が並ぶ街道。露店で買い物をしていた者も、売っていた者も訝しげに店仕舞いを始めている。


港へ走っていく人の姿を見る。わたしはジャックと一緒に噴水広場まで来て、腰を下ろした。


<<リズ様、私の人形が近づいています。>>


「また食べないとダメかしら?」と、わたしは左右を見渡す。


「リースちゃん?リースちゃんなの?」


「え?おばさん・・・」と、わたしは声のした方を見た。ジャックが照らしてくれる。


「リースちゃん、大変なの!娘が、娘が」


「おばさん、落ち着いて。ベレッカに何かあったのね」と、わたしは聞く。


「娘が死にかけているのよ!」と、銀髪の髪を後ろでくくっている40代のおばさんは叫んだ。


「ベレッカが・・・そう」と、わたしは急に下を向く。


「リースちゃん、赤い扉開けてしまったのね。その赤い目・・・ねえ、リースちゃん。どうすれば娘は助かるのかしら」と、おばさんはわたしの肩を静かにつかむ。


「おばさん・・・ベレッカを見せて。それとおばさんもメフィストフェレスの人形だったのね」


「そうよ・・・私の一族は随分前からそうやって生きて来ているのだから。それはベレッカも同じ」


「ベレッカも?」メフィストフェレス・・・人形が死ぬのはどんな時?


<<肉体欠損によるか、魔力の消失です。前者なら私は魔力を提供する気はございません。後者なら私との魔力が合っていなかった。魔力調質の必要があります。それは私との上位契約者にしかできません>>


「おばさん、ベレッカのところへ案内して」


「もちろんよ。ああ、夜目が効くからランタンは不要だからね、リースちゃん」


右手をつかまれてわたしはおばさん、オーロラ・ボルテスについて行く。


ボルテス家に行くのは久しぶりだ。わたしはそう思いながらも素直に懐かしいとは思えなかった。


トールハンマ。ボルテス家の表の顔、居酒屋としての看板が見えてくる。


「さあ、早く早く」と、オーロラおばさんは足を速める。ジャックもちゃんとついて来てくれている。


「うん」と、わたしは少し嬉しかった。人間をやめた自分を頼ってくれる人がいる事に。


ベレッカの部屋は2階だ。玄関をくぐり抜けて、奥にある階段を上がって、ベレッカの部屋のドアをオーロラおばさんが開けてくれた。わたしは入る。


ベッドの上にはうなされているベレッカがいた。


「お母さん、苦しい。苦しいよ」と、ベレッカがつぶやいている。


「魔力が消えかかっている」と、わたしはつぶやく。


「赤い扉を開いた・・・それでなお生き残っているという事は・・・上位契約者になれたんでしょ。リースちゃん、お願い。あなただけが頼りなの」


「・・・うん」魔力調質、どうやるの?


<<まず私の魔力を首から吸い出すことです、リズ様。それからリズ様の魔力を息を吹き込むように与えてベレッカの魔力とリズ様の魔力を調整すればいいのです>>と、脳に響く。


わたしはベレッカの左側に座って、背中を持ち上げて首の右側に狙いを定めて、かんだ。


「ひゃ」と、ベレッカは声を上げる。


わたしは息を吸うように血を吸い出す。ベレッカは徐々に意識を失っていく。わたしにメフィストフェレスの魔力が流れてくる。それを吸収した後にわたしは自分の魔力を与えるように息を吹き込む。するとわたしの魔力に反発する小さな魔力があった。


これがベレッカの魔力


「今、助けるから」そう言って口を離す。右手をベレッカの心臓の部分においてわたしは調整を始めた。


微弱な魔力が反発しないようにゆっくりと調整していく。


波長を合わせる。探りながらゆっくりとゆっくりと。繋がる。


いや、つながったと言うべきなのか。ベレッカの呼吸は深くゆったりしたモノへ変化していった。


「あ・・あああ」と、オーロラおばさんは口を手で抑える。


「魔力が戻っていく」と、わたしもつぶやく。


<<魔力調質が完了しました。リズ様、目をいただきます>>

わたしの視界がまた黒くなる。だが、すぐにまた視界は元に戻る。わたしの目の前にはジャックが笑っているように見える。カボチャ顔のお化けだから、同じ顔なんだけどね。


<<リズ様、提案があります。300人の心臓を集めてください。そうすれば、サタンと上位契約を結ぶことができるでしょう。ただ集めてもダメですよ、ちゃんと裏切ってあげてくださいね>>


「わかったわ・・・ねえ、おばさん。早速だけど協力してくれる?」

「ええ、えええ。いいわよ、何だって協力するわ」

「ありがと、おばさん。というかメフィストフェレスの声を聞いて逃げないし、怯えないのはおばさんぐらいなんだけど、怖くないの」

「そうねぇ。長年、そういう魔王信仰で生きてきたろくでもない家系だからねぇ」

「そ、そう」と、わたしは半分怖くなり、半分そういう生き方もあるのかもしれないと思った。

「それじゃ、私たちの教会を貸してあげるわ。ね、それでいいでしょ」

「うん。作戦はおばさんに任せるわ」

「そうかい、でもどうやって集めるんだい?」

「両目、両腕、両足、胸、腰・・・好きなだけ食べなさい。それで足りるかしら、心臓を集めるのに」

<<もちろんです、リズ様。それではいただかせてもらいます>>

視界は暗くなり、腕は大きな口をしたフェンリルが順番に食べて行く。足も太ももから下を食べられる。

胸も腰も。服ごと。


蜘蛛が人の身体を形作る頃にはわたしの身体は元に戻った。

「こんな感じよ、おばさん。先払いなの。」

「あはは、いいねぇ。魔女って感じだねぇ」

「そうかしら」と、わたしはジャックを見る。ジャックはわたしたちを照らしてくれている。

「あちしも手伝わせて」と、ベレッカが起き上がる。

「もういいの、起きて。まだ寝ていた方がいいんじゃ」と、わたしは聞く。

「いいの、大丈夫。それにあちしのマスターはリースだから」と、ベレッカは言う。

「そう、ありがと。嬉しいわ、ベレッカ」

初めての人形という事ね・・・。なんか複雑だわ。

ますます人間じゃなくなっていく。

こんなのでわたしを愛してくれる異性なんて、どこにいるのかしら。

今は考えても仕方ないわ。魔王たちと契約を結んで行かないと。

ねえ、兄さん。と、わたしはジャックを見た。

やっぱり笑っている。いいえ、同じ顔なのよ、カボチャ顔のお化けだから。

「じゃあ、リースちゃんいいかい?作戦を言うよ」と、おばさんは静かに語り出す。

聞き終えた後、わたしたちは居酒屋トールハンマから街の南西区にある教会へ向かった。


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