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第2話 兄の掛け声

「バカな兄で悪かった。リース、頼りにしてるぞ」と、兄は黒いドアノブに力を入れて回した。赤い扉は開かれる。いきなり悪魔が出てくるとか、そういう事は無かった。ただ目の前の台座には虹色の魔法陣の上に浮かぶ赤い表紙の本があるだけだ。


わたしと兄は目で合図をし、2人同時、本に近づいた。


<<大切な存在を殺せ。そして食べろ。それが契約の始まり>>


脳裏に響く嫌な声。


「ダメ!私に兄さんは殺せない・・・無理よ」と、わたしは首を振る。


「おい、悪魔!じゃあ、生き返らせる事はできるのか?」と、兄は叫ぶ。


<<本棚を利用し、魂を保存するならできるな・・・。それ以外では無理だ。魂は保存しなければ旅立つからな・・・>>


「じゃあ、最高級の道具ぐらい貸してくれよ。どうせなら圧倒的な力で殺されたいし、殺したいんだ。頼むよ」と、兄は言う。


<<ダメだ。レヴァンティンという魔剣は貸せないし、渡せない。それはわれらが我が君と認めた者にだけ。殺しの道具なら台所にあるであろう・・・ほら>>


わたしと兄の前によく砥がれた包丁が2本現れる。


「リース、ボクを殺せ。お前は生きるんだ。」


「ダメよ。そんなのできない。兄さんが私を殺して」


「リース、頼むよ」兄は泣き出した。


「できない、できない、できない、できないってばーーーー」と、わたしも叫ぶ。目尻には涙が流れている。兄も泣いている。


「じゃあ、こうしよう。リース、包丁を手に取るんだ。そして一斉に心臓部分目掛けて一歩前に飛び出す。なっ。これなら2人同時に死ねるぞ。2人とも悪魔に喰われてしまう。痛いのはほんの数秒だけだ。簡単だろ?」と、兄はわたしを優しく見つめる。


「本当に?」と、わたしは聞く。


「ああ、本当さ。ほら、持って構えるんだ」と、兄は包丁を持って構える。


「こう?」と、わたしも持って構えた。「もう少し低く」と、兄は言う。


「え?こう」と、わたしは聞く。


「包丁を持っている方の肘をもう少し下げて刃先は斜め上に」と、兄は言う。


「あっ。うん。じゃあ目を閉じるよ。兄さんが掛け声を言って」と、わたしは目を固く閉じた。


「いいじゃないか、リース。それであとは一歩前に直進すればいい。掛け声は言わしてくれんだね。一斉のーでで、行こう。準備はいいかい?」


「いいよ、兄さん。煉獄で会おうね」と、つぶった目からは涙が流れている。


暗い、何も見えない。足音?


「ああ、煉獄で会おう。ボクたちに最後の神様の導きがある事を祈って」


「はい・・・・・・はい」大粒の涙がこぼれている。


「一斉のーで!」と、兄の叫び声を聞く。


「兄さん!」と、わたしは前へ飛んだ。右手に生温かい液体がまとわりつく。


「・・・」次に重みが右肩と右手に。


「え?兄さん?」広げられた兄の手から包丁は落ちて床で跳ねる。


「うそ・・・」


「うそよ!」と、わたしは叫ぶ。


<<さあ、食べよ>>と、低い声が脳裏に響く。


「兄さん・・・」わたしは兄を抱きしめた。包丁は胸を貫き、背中にまで突きでている。


膝を曲げて、兄を床に降ろして包丁を両手で抜いた。派手に血しぶきが上がる。


その血を浴びながらわたしはおかしくなったのか、笑い出した。「うふふ、あはは、あはははは」


「兄さんだけを煉獄に行かせはしない。兄さんは私が身体に入れて持ち運ぶからね」そう言って、最初にわたしは兄の右手の指を切った。それをさらに一口大にまで切り刻み、口へ入れた。

「苦い・・・でもこれが兄さんの味」そうやって少しずつ、少しずつ口へ入れていく。

足の指も切った。太ももは食べやすいように薄く切って食べた。腹を切り裂き、腸の1部を取り出して1部分を切り取る。糞を取り出すために2つに切り分けて、血で糞を洗い流してから口へ入れて食べた。次に腎臓、肝臓も切り取り、食べて行った。心臓部分も薄く切り取り、食べた。


「兄さんの心臓・・・これが兄さんの核・・・おいしい」と、わたしはつぶやく。


「次は顔」と、わたしは目をえぐり出して食べた。耳を切落して食べた。髪の毛を数本切って食べた。何度も戻していた。吐いてもいた。それでもまたそれを飲み込む。飲み込んだ。右手で兄のもう兄とは分からないおでこの部分を叩く。ぐちゃと嫌な音を立てて潰れた。潰れた頭蓋骨と脳味噌をそのまま飲み込む。「兄さん、必ず生き返らせるから・・・待っていて」と、わたしは血と涙でぐちゃぐちゃになった顔を血まみれの腕で拭いて、さらに汚れる。


<<上位契約の成立を伝える。大切なものを殺して食べた事でわれ、フェンリルとの上位契約。細部まで解剖し、かつ、死者蘇生という禁忌を求めた事でメフィストフェレスとの上位契約が成立。>>


「名を名乗りなさい」と、わたしは言う。


<<われはメフィストフェレス。しゃべらない大きな黒狼はフェンリルと言います>>と、低い声が脳裏に響く。


わたしの後ろには2つの気配が現れていた。


大きな黒き狼。燕尾服を着た口だけの目と鼻のない執事。


<<名を教えてくださいませ。われら下僕に、我が君>>


「リースはあだ名。リスティア・ウィズ・クライン・・・あなたたちにリースとは呼ばせない。リズと呼びなさい。それから魂を保存する本棚を教えて。」と、わたしは答えた。

<<われはメフィストフェレス・・・リズ様、フェンリルを使用するには身体の1部を捧げてください。そして兄、リルル・ウィズ・クラインの魂を食べさせてください。それで保存となります>>

「わたしの右腕を食べなさい」と、わたしは命じる。大きな黒き狼は口を開けて、わたしの右腕を嚙み砕いた。嚙み砕かれた右腕から蜘蛛が大量に発生し、元の腕へ戻ろうとしている。痛みも感じない。わたしは人間を止めてしまったのか。


<<再生です、リズ様>>と、メフィストフェレスの低い声が脳裏に響く。


フェンリルは舌の上に青白い球のようなモノを見せる。<<リルル・ウィズ・クラインの魂、回収に成功しました。復活させるには残り5人の魔王との契約と器となる”聖なるモノ”が必要です>>


「そう・・・ところで、台座にある赤い表紙の本。なんて名前なの?」

<<魔王の書でございます。リズ様>>


「来い」と、わたしは呼ぶ。

虹色の魔法陣の上に浮かぶ赤い表紙の本はわたしの左手に吸い込まれるようにやってきた。


<<魔王の書。残り5人と上位契約を結ぶならば・・・おのずとアビス(冥界の底)への黒き扉は現れます。それまでに”聖なるモノ”リズ様を愛する異性を見つけてください>>


「なにそれ。少し黙って」そう、つぶやいてわたしは部屋を出る。赤い扉は役目を終えたからか消えた。赤い扉のあった場所は白い壁しかもう見えない。いや、壁しかない。それを見てからわたしは階段を降りて行った。魔王の書を1階の自室の机の上に置くと消えた。また呼べばいいわと、わたしは思い、服を脱ぎ捨てて、風呂場に行ってから入っていたぬるま湯につかった。水面が赤黒く変化していく。明日は奴隷商人たちがやってくる。裸で風呂から上がって下着と薄い寝巻きを着て自室に戻り、ベッドに倒れるように寝た。無常にも次の朝は来る。ただ朝は来なかった。


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