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第1話 赤い扉

「おい、こらぁあああ」と、玄関のドアを蹴り壊された。金髪の男が入ってくる。その後ろには頭にターバンを巻いた大男もいる。


わたしはすぐに兄さんのいる部屋に続く階段を上った。


「兄さん、兄さん」と、わたしは兄さんの部屋のドアを叩く。何度も、何度も。


「兄さん、大変なの。ねえ、兄さん」兄さんからは何も返事が無い。わたしはさらにドアを叩いた。


「リース、ボクなら下にいるよ」と、兄、リルルの声をわたしは聞いた。わたしは階段を降りて、玄関にいる男たちを無言で見つめている兄さんの背中を見つけ、後ろに立つ。


「兄さん・・・」と、わたしは呼んだ。


「よお、おまえさんが息子のリースか?それと2階に上がって行ったのは娘のリルルか?」と、金髪で短髪の男は聞いてくる。


「違う。息子はリルル。妹はリースだ。」と、兄は答える。


「へ。それはすまねぇ。なーに、どっちだっていいんだ。あんたの母さんが博打好きなのは知ってるよなぁ。そのせいで父親は身体を売られて熊のエサになっちまった。父親を売った金で母親はどこかへ行った。今までも一緒に暮らしていねぇ。でもなぁ・・・あんたたちの母親はおまえらを奴隷として売りやがった。どうせ回収できないと腹をくくっての博打だったのかもしれねぇ。だが、こちとらそういうわけには行かない。回収できないとなるとこっちの顔も潰れる。だから、回収に来たのさ。お前たち2人を奴隷としてなぁ。」と、金髪の男は睨む。


「そんなの横暴だ。無茶苦茶だよ。どうして奴隷として連れて行かれなきゃ行けない。それもあのボクたちを捨てた母さんのために!」と、兄は怒鳴る。


「そういう契約だ。1日猶予をやる。逃げたければ逃げろ。もちろん、追いかけるがな」と、後ろの大男は低い声で言う。


「1日だけでさぁ。明日の朝、もう1度ここに来まさぁ。それまでよく話し合ってみることをおススメしやすよ。ただ逃げた場合は家に火をつけて追いかけるんで。よろしく頼みまさぁ」と、2人の後ろにいた緑髪の男も言う。


「へ。そういうことだ。それじゃあ、兄貴たち帰りましょう」と、金髪の男は背を向けると他の2人も背を向けて去って行く。


玄関は閉まらない。


壊されたから。兄は玄関の先、三人組の背中を見ている。


「兄さん、どうしたらいいの?私たち奴隷になっちゃうの?」


「なあ、リース。父さんの遺言、覚えているか」


「覚えているけど・・・開けに行くの?あの赤い扉を。兄さんの部屋にある赤い扉を。あれを開けてしまうと元に戻れないよ。もうきっと人間の生活はできないよ。悪魔に魂を売るって事だよ。それでもいいの?」と、わたしは兄の胸に顔を埋める。


「リース」と、兄は目をつぶり、わたしの長い黒髪を撫でる。


「父さんの遺言は<母に復讐したいならしろ。そのための用意はある。赤い扉を開け。扉の先には一冊の本がある。悪魔の書だ。魔王と契約できる悪魔の書だ。開いてしまえばもう戻れない。悪魔と一緒に歩くしかない。覚悟が決まるなら開け。父より>。復讐の時は今じゃないのか。赤い扉を開き、復讐するのは」


「今は復讐の時・・・兄さんの言いたい事は分かるわ。分かるけど兄さん!いいの?人間を辞めてしまって。本当に後悔はないの?」


「奴隷として生きて行ってもいい。ボク1人なら・・・だが、リースまでも奴隷になるのは耐えられないんだ。例えそれが悪魔に魂を売る事になっても」


「兄さん・・・・・・。嬉しいわ。気持ちも分かる。私も覚悟を決める。行きましょう、2階の兄さんの部屋へ。」


「リース、すまないな」と、兄はわたしの服を見つめているように見える。青いワンピース、おかしかったかしら。それともこのエプロン?


「どうしたの、兄さん?」と、わたしは聞く。


「いや、料理の途中だったんじゃないかと思ってな」と、兄は言う。


「まあね。目玉焼きを焼こうとしていたら、あの人たちが来たから」と、わたしは下を向く。肩まであるわたしの黒髪ごと、両手で兄は頭を撫でた。


「ちょっと兄さん?」と、わたしは抗議する。


「2階へ行こう。」そう、兄は言って玄関から後ろを振り返り、右側の階段を上った。兄は短い黒髪なのでかきあげる必要は無いのだが、右手でかきあげる癖がある。それはイライラを隠すためなのか。やりきれないのか。そういう時にかきあげる。


兄は茶色のドアを開けた。兄の部屋だ。見慣れた兄の部屋。


右側にはベッドがあり、左側には勉強机と数冊の本が置いてある。ベッドと勉強机の間に赤い扉はあった。父が死んでから開けた事の無い扉。わたしは熊と戦い、死んだ父の遺言を思い出していた。


「兄さん。兄さんも父さんの遺言を思い出しているの?」と、わたしは聞く。


「ああ。いまだに理解できない遺言だ。それに手紙は死んでから2日後にやって来たし、父さんに・・・この部屋に本をしまう時間なんて無かった。いや、やめよう」


「うん。この部屋に赤い扉なんて無かったよ。父さんが死んで・・・掃除をしていたら突然現れた。今でも覚えている。虹色の魔法陣。この世界で7人の魔王と契約した魔術師が使用できる魔法陣と一緒に赤い扉は兄さんの部屋にやって来た。それだけでも嘘じゃないと思う。ねえ、兄さん。開けると戻れないよ。魔法陣の強制力は絶対的なもの・・・それでも開けるの?」


「正直、迷っている。リースを助ける道は他にないのか。そう考えたりもする。だが、リミットは迫っている。あの三人組は容赦も情けもかけてくれない。ボクたちを容赦無く、奴隷として連れて行くだろうさ。それに逃げたところであいつらの仲間が別の町にもいる可能性はある。あいつらは絶対捕まえる事ができるから、こんなくだらないゲームを思いつくんだ。ああ、それでも。それでもだ。この扉を開ける事は正しいのか。分からない。分からないけど、リース。ボクはお前を守りたい。例え悪魔と契約する事になっても」と、わたしを見つめて、わたしの手を握る。


「兄さん。悪魔に喰われればゲヘナにも天国にも行けず、その狭間で苦しむ事になるわ。そう、誰にも気づかれずに。時々、狭間を見る力を持っている人もいるけど。その人が最後の神様を信仰しているかどうかは奇跡の中の奇跡としか言いようがないぐらい低いチャンスなのよ。何兆年に1度あるかないか。だからその時は私も悪魔に喰われるわ。兄さん、独りじゃ狂ってしまうわよ。」と、わたしは兄を見つめ返して答える。兄は黙っている。兄は迷っているのかもしれない、その迷いを隠すように目をつぶった。


「扉を開けよう」それからやっと兄は赤い扉を開けるために近づき、赤い扉の黒いドアノブを握った。


「兄さん、2人なら乗り越えていけるわ。」と、わたしは言う。


「ああ」そう、つぶやき開けようとするも兄はドアノブを回せないでいた。


<<回せ。お前の本性を見たいなら>>低い声が脳裏に響く。兄の声では無い。もちろん、わたしの声でも無い。


「兄さん、手を離す事はできる?」と、わたしは聞く。


「い・・・離せない」と、兄は叫ぶ。


<<回さないならそこで何も食べず餓死して死ぬがいい。さあ、回せ>>


「どんな悪魔が出て来ても2人でなら大丈夫よ。わたしも喰われて死ぬわ」


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