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ウィズアウト  作者: 加水
第一章
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第一章〜三通りの道しるべ(3)〜

「うんと、俺。この城の主でラジウって言うんだ。こっちは保護者のクレク。後ろにいるのは俺の仲間」


 シンとした場の雰囲気をどうにかしようとラジウは懸命に自己紹介をする。


「あっは。こんなちっこいのが主?ちゃんちゃらおっかしいぃ」


 アレンは、頬の血を拭ってから気にした風でもなく、相変わらずふざけたようにラジウをからかう。

 そんな彼にラジウは頬を膨らませてみせた。


「ちっこくっても、主だよっ!あんたらは何なのさ?」


「あぁ、悪い悪い。オレはアレン。山賊の頭だよ。こっちはシルキア。オレの子分」


 怒ってじと目を向けるラジウに、アレンは笑いながら説明した。説明直後にガッという音がして、さっきとは逆の頬から血が滴り落ちた。一瞬身を硬直させるアレン。シルキアと彼の延長上には、柱に刺さった小さなナイフがあった。


「……何すんだよっ!?」


 アレンは慌てて振り向きシルキアに食ってかかった。


「ムカついたから真似しただけだ」


「真顔で言うなーっ!」


 無表情のまま言うシルキア。しかし、ナイフを投げられたアレンにしてみれば心臓ばっくばく。怒らずにはいられない。

 身体をわなわなと震わし、怒鳴りつける。


「いつものことだろ」


 ただ怒ってみても、シルキアは相変わらず無表情でしれっと答えるだけだった。アレンはため息をついて、もういい。と小さく呟いた。そして、ラジウ達に向き直る。それから、気を取り直してまた話始めたのだった。


「ちなみに山賊っつーても、一般人からは盗らないからな?だいたい同じ山賊か、悪い金持ちがターゲットだ。いわゆる義賊ってやつさ」


 胸を張って自信満々に台詞を紡ぐアレン。


「義賊と言っても、誰かから物を取りあげることに変わりはない」


「まぁな」


 しかし、シルキアのチャチャによりアレンは苦い顔をした。無表情で真面目に言うシルキアに、冗談交じりのアレンの台詞は先ほどから空回りしてばかりである。

 苦笑って頬を掻いているアレンを尻目に、シルキアはラジウの前に進みでた。ラジウに視線を合わせようと片膝を付きしゃがむ。その顔は、額に皺がより不愉快そうだ。しかし、目だけはラジウの青い目とかち合い、しっかりと真剣さを伝えている。


「な、なんだよ?」


 目の前に来たシルキアはまったくしゃべる気配がない。だから、内心ラジウは焦り、どもりながらも話しかけた。じゃっかん腰が退けているように見えるが気のせいだろう。シルキアの目をしっかりと見据えているのだから。


「……何故、お前達はここにいる?」


 シルキアはラジウの目を見たまま言った。静かな低い声。それにラジウはドキっとしたらしく、少し体を固まらせた。


「えと……この城から僕……新しく頑張ろうと思って」


 ラジウはたどたどしく答えながら目を泳がしていた。どうやら考えがうまくまとまらないようだ。しかし、そんな彼を、シルキアはずっと見つめている。それが余計にプレッシャーとなってラジウを押しつぶしているのだろう。


「親はどうした?大人は、この頼りない保護者だけか?」


 シルキアの言葉に、クレクがラジウに走り寄ろうとする。しかし、アレンがそれを腕で遮った。そして、首を横に振る。そんなアレンの目は、さっきまでの悪戯じみた目ではなく、真剣そのもので。さらに言うなら、彼の片手にはキラリと光る短剣が握られていた。それらは全て、クレクに動くな。と告げている。


「母上は知らない。父上は……父上は、この間死んで……残ったこの城で、僕は……」


 ラジウは答えるも、だんだんと声が小さくなり、視線も少しずつ下がっていく。最後には、完全に下を向き、言葉を詰まらせた。それを読み取ったのか、シルキアが間発入れずに言う。


「貴様はまだ、親が恋しいようだな」


「ちがっ!」


 シルキアの言葉に勢いよく頭を上げ、目を見開くラジウ。そして、必死に否定の声を上げた。


「なら、その顔は何だ?不安でいっぱいと言った感じだが?」


 シルキアの視線の先、ラジウの顔には、流れる透明な滴が姿を現していた。表情も眉は八の字に曲げられ弱々しそうである。


「……」


 ラジウは両腕で涙を懸命に拭き、シルキアをキッと見た。しかし涙は、ラジウが必死に止めようとしても、次から次へと溢れでてきてしまう。ラジウは唇を強く噛んだ。


「まだ、父の死を受け入れられていないんだ。貴様は」


 シルキアの淡々とした無感情な口調。さらに、突き刺さるような言葉は、ラジウをドキンとさせた。彼の言葉はラジウの心を見透かしてるようで、ラジウは言葉を詰まらせ、再び下を向いてしまった。そんなラジウをじっと見つめているシルキアは、涙を気に止める様子はなくさらに言葉を続ける。


「ここは、ある意味戦場だ。府抜けたガキは帰れ。邪魔なだけだ」


 端的な言葉を言い放ち、シルキアは立ち上がった。


「行くぞ」


 アレンにそう言うと、ラジウ達に背を向け、さっさと歩き出してしまう。自分の言いたいことを言い放ち、相手への弁解の余地を与えない。それは、ラジウにとって手堅い痛手を生み出した。


「あー、もう。自分勝手だなぁ」


 アレンは苦笑いをしながら短剣をしまい、シルキアの後をついていく。


「あ、そうそう。オレもシルキアと同意見なんだ」


 しかし、途中でピタっと止まり、振り返った。そして、言葉をつむぐ。


「戦いの場に、弱い奴は邪魔なだけ。ホゴシャさんはさ、ここに山賊が出るって、知ってただろ? こんな大人数の子供を、一人でなんて守れないのに、こんなところに来るホゴシャさんの気がしれないね。まぁ、ついてくるガキもガキだけど。そんじゃな」


 軽い口調なのに、軽蔑しているような冷たい視線が言葉に冷酷さを持たせていた。言葉の冷たい痛さがラジウ達に突き刺さる。

 アレンは踵を返し、既に見えなくなったシルキアを追った。


「うわぁぁあああ゛あ゛!!」


 残されたラジウは膝をつき、大声で泣き出した。先ほどとはうってかわって大粒の涙が床へと後を残す。

 アレン達は姿を消し、城にいるのはラジウとクレクと少年少女のみ。

 ラジウの泣き声は悔しくて悔しくて、言い返せない自分が情けなくて、死んでしまった父が恨めしくて、残されたことが寂しくて。そんな感情がひしひしと伝わってくるくらい悲しい泣き声で。そんな泣き声は、次から次へと他の子供に飛び火した。

 小さな子供からラジウに続いて泣き出して、最後には全員が泣いて泣いて……悲惨な泣き声だけが城に木霊する。

 そんな中、クレクは眉を潜め黙っていた。それは、この状況で自分はどうしていいのかわからず、ただ見守ることしかできなかったから。だからクレクは、自分の力のなさを改めて実感していた。

 しばらくして、泣き疲れて眠った子供達を、クレクは寝室へと運んだのだった。

 もう、時計の針は次の日の朝を指しており、辺りも段々白く明るくなってきていた。


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