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ウィズアウト  作者: 加水
第一章
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第一章〜三通りの道しるべ(1)〜

 第一章~三通りの道しるべ


 暗闇が辺りを支配する。そんな静まりかえった夜に、活動を開始するものがいる。夜行性の動物同様、暗闇のなかで目を光らせ、獲物を耐えず狙っている。人は彼等を山賊と呼ぶ。

 今日も丘の跡城で、盗った獲物を競い酒盛をしようとやってきた。しかし、丘の跡城にある一室、昔ラジウが使っていた部屋では、ラジウ、クレク、着いてきた少年少女達が床に布団をしき寝っ転がっていた。

 荷物を運び、綺麗に飾り付けした部屋はここしかなかったのだ。だから皆でここで寝ることにしたのである。



 がたっ



 静まりかえった城に物音が響く。クレクがその物音にうっすらと目を開けた。耳をそばだてるとガヤガヤとした何人もの声がする。それはだんだん大きくなり、騒音として部屋にこだました。

 子ども達も目を擦り体をゆっくりと起こす。

 ラジウが、自分の隣で状態を起こしたクレクに視線を投げる。


「クレク。何だろう?」


「私にもわかりません。……見に行って来るのでここで静かに待っていてください」


 話す相手にだけ聞こえるように、二人はこそこそと会話をつむいだ。

 クレクは確認をするべく、音を立てないよう立ち上がる。そしてドアノブに手をかけた。


「やだ」


「はい?」


 緊張の糸をあっさりと打ち破ったのはラジウ。頬を膨らませてみせる。彼の否定の意だ。クレクを止めるかのようにラジウは否定の声をあげたのだ。それに思わずクレクは聞き返してしまう。


「やだ。絶対いやだっ」


 もう一度はっきりと告げるラジウに、クレクは固まった。その彼の横に、彼の行動を気にすることなく、ラジウは起き上がって素早く移動する。

 ラジウは、真剣にクレクの紫色の瞳を覗き込んだ。


「クレクがいなくなったら、彼等を誰が守るの?」


 ラジウの視線が、部屋の中の少年少女達へと向けられる。結局は力がない子供ばかりがここにいるのだ。大人であるクレクが唯一頼れる存在なのは事実である。

 クレクは観念したように苦笑い頷いた。


「わかりました。皆で行きましょう」


「やった!」


 小さくガッツポーズをとるラジウ。彼の目は好奇心に輝いていた。その瞳を見て、クレクは溜め息をつく。彼の座右の名が激悪戯っ子だったことを思い出したのだ。今回も何か企んでいるに違いない。そう思うと多少不安になってくる。


「さ、早く見に行こう」


 しかし、うきうきと肩を弾ませ外に飛び出してしまうラジウ。陽気な彼に続いて子ども達も楽しそうに飛び出した。これではもう、どうにも止めることは不可能のようだ。クレクは仕方なく彼等に人指し指を立て、静かにと警告をした。彼等はそんなクレクの真似をしてシーっと言う。どうやらその点に関してはしっかりと理解しているようだ。

 騒ぎのする方へ音を立てずに移動すると、広間に出た。ラジウ達は壁際からそっと中を覗き込む。広間には大勢の人がいた。身なりは品の良いもの、ボロボロなものとそれぞれだ。しかし、顔は皆


「うわぁ……三流悪役っ」


 である。

 ラジウの言葉に小さく乾いた笑いをしたものの、クレクは真面目な顔に戻り観察している。

 そんな緊張が伝わったのだろう、ラジウも口をきゅっと結ぶと、クレク同様じっと広間にあつまる三流悪役を見た。

 その時



 ごんっ!



「ぃ!?」


 いきなり彼等の後ろでぶつかる音がした。ラジウは思わず身をすくめ小さく声を出してしまう。なんとなく嫌な予感がし、振り返るのをためらうが、仕方なく少しの間を置き、そろりと後ろを振り替えった。


「ふぇ……」


 そこには、座り込んで今にも泣き出しそうな幼い少女がいた。この一番年下の少女が転んで、さっきの音をたてたようだ。額がうっすらと赤い。彼女はラジウ達が見守る中、目に溢れんばかりの涙を溜めて、大声を出そうと息を吸った。

 彼女以外の全員が慌てた。

 こんなところで泣き叫ばれたら、広間にいる人相の悪い奴らに見つかるだろう。そしたら、どうなってしまうのだろうか?そんな疑問がラジウの頭のなかに浮かんだ。

 少女が大きな口を開ける。ラジウは手をばたつかせるだけ。混乱して何をしていいのかわからないのだ。



 ぼふっ



 少女の泣き声が出るっ!そう思った瞬間、鈍い音が彼等の耳に届いた。

 ラジウはびくついた時に閉じてしまった瞳をゆっくりとこじ開ける。開けた視界の先にはラジウよりも年のいった少年が彼女の口を片手で塞いでいた。

 もごもごと幼い少女は声を出そうとしているが押さえられているため、くぐもった声しかでない。


「妹がすいません」


 少年は苦笑って小さく呟いた。ラジウも頬を引きつらせながら釣られて笑う。どうやら、少女が声をあげるのは防げたようだ。ほっと安堵した空気が辺りに流れた。


「ん~っ!」


 しかし、それも束の間。少女が苦しそうにもがきながら状態を前に倒した。

 まだ成長途中の少年少女の体は、その衝撃を押さえられる程大きくはない。あっと息を飲むうちに少年と少女は倒れて転がり出した。その方向は壁がない、つまりは広間から丸見えのところである。

 ドテッと音がするような止まり方。スピードが落ちた二人は壁もない場所で、うつ伏せで止まったのだ。


「うっ、うっ……あーーんっ! 痛いよーっ!!」


 少女が起き上がろうともせずに泣き出した。その泣き声にざわめきがピタリと止まる。そして、視線が彼等に集中した。もちろんラジウ達だけではない、広間にいる者達も唖然として彼等を凝視しているのだ。

 少年がその視線に気付き慌てて起き上がる。その顔は耳まで赤く、視線があちらこちらに泳いでいた。また、あはは。と小さく渇いた笑いもする。


「わぁあーっん! わぁむぐっ……」


 少女の泣き声がこだまする。それにはっと我に返る少年。彼は急いで少女の口を手で塞いだ。それから死にもの狂いで少女を引きずり、元の場所に駆け戻ったのだった。

 まだ辺りは静まりかえっている。少年が息を切らしている音だけが妙に煩く聞こえた。いや、ラジウ達にとってはそれよりも、自分の心臓の鼓動が煩いに違いない。あっという間の出来事にポカンと口を開け冷や汗を流しているのだから。

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