ヤンデレをもう一回体験してみよう!(2)
博己の家は住宅街だ、親が残してくれたこの家は今は静香によって管理されている。
静香は昔から弟思いのいい姉と近所と学校で評判、しかも勉強も出来て顔もモデル並みの美少女、一歩進むたび思春期の男は振り向き、教職員までもが振り向く有様だった。
そして中学の時、毎日それが日常になってしまうほど告白という行為もされていた。
しかし、静香に寄ってくる男は静香の事を理解せず、顔ばかりを見て判断するだけである。
それは静香は嫌がった、近づいてくる男たちが性の獣にしか見えなかったからだ。
思春期の男子ならそれくらいは当たり前だという認識は出来なかった、だって怖いから、恐ろしいのは嫌いだ。
そんな中、弟のことも正常に見れなくなっていた。
いつか、私の弟もあんな風になってしまうのだろうか…と。
しかし、ある日。
弟が怪我をして帰って来た。
「ただいま」
「…………おかえりなさい」
「ごめんね姉さん、俺負けちゃった」
静香はどうしたの?と小学生の博己に聞くことも億劫になってきていた。
「俺、姉さんの悪口言ってる奴見つけちゃったんだ」
「…!」
「俺は腹がたっちゃって中学生なのかな?に…殴りかかっちゃった」
「…」
「ごめんね姉さん…迷惑かけちゃった…でもっ!俺っ…姉さんの事好きだからっ…!さ!」
博己は泣きながら話を進めていく。
顔はぐちゃぐちゃになり、涙が零れだす。
優子も最初は呆然としていたが、博己の話を聞いていく程に涙が溢れ出した。
「俺っ!俺っ!…絶対に姉さんを守るから!…もう守られるだけじゃないから!」
博己の言っていることは支離滅裂だ、しかしその暖かい気持ちは冷えきった静香の心にしかと届いた。
静香は生まれた時から博己のことが好きだと思っていたが、この時から好きになったと言ってもいい。
静香は弟のことが大好きだ、病的なまでに。
我が弟をリンチした生徒たちにはきっちりと報復して学校に居られなくした、小学生を数人で囲んで滅多打ちにした極悪卑劣な犯罪者と仕立て上げた。
周りで見ていて止めなかった人間たちも同罪だ、全ての者にとにかく静香は報復した。
そして、学校の女帝に成り上がる。
そう、難しくないことであった。
◇
その住宅街、異様な空気を発している二人憎悪という憎悪に彩られたこの最恐の二人…四月一日優子、稲垣静香。
この二人は一触触発の雰囲気だ、優子からは黒い霧、静香からには静かなる闘気が溢れているのを博己は錯覚する。
夜空を飛んでいた鴉は急に方向転換し、酔っ払いも何かの悪寒を感じとってその場で恐怖に打ちひしがられる。
それを近くで見ている博己は二人の憎悪を肌で感じ取り鳥肌が立つ。
博己は鳥肌は鍛えてからあまり立たない方だ、なのでこれは異常事態だとも言える。
先に優子が口を開く。
「いつも、博己くんのお世話になっております四月一日優子です、是非とも名前で呼んでください、よろしくお願いします」
そう言うと右手を差し出す。
にっこりと満面の笑みで。
しかし、目が笑っていないのを博己は見逃さなかった。
次に優子も口を開く。
「ええ…ええ…博己ちゃんがいつもお世話になっております…優子ちゃんでよかったのかしら?」
静香も左手を差し出し、二人は握手をした。
しかし博己には分かる姉も目が笑ってないし、二人で握力比べをしている事を。
ギリギリと音を立てそうな二人の握手、そして二人は口を揃えてこう言った。
「一晩よろしくお願いします、お姉様?」
「……ふふ、ご冗談が面白い娘で…四月一日さん?」
静香は名前呼びと言う優子の提案をバッサリと切り、優子の方もお姉様と呼び挑発する。
この二人はいつ、包丁、カッターを持ち出してもおかしくない雰囲気で、博己は腰を落とし臨戦態勢に入った。
それを見た優子と静香は…
「ま、取り敢えず家にいらっしゃい?」
「はい、お邪魔します」
と、そそくさと家の中に入っていった。
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一日中開けていたのに、まさかのブクマを四人の方がしてくれている…
嬉しい…嬉しい…
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