ヤンデレをもう一回体験してみよう!(1)
博己が優子を看病し、二時間が経った。
どうやら原因は急に体を動かした事だ。
博己は俺の蹴りがちょっとでも掠ったのかと思ったが、跡もなかったので安心した。
「う、うん…」
「大丈夫か?」
「私……ひゃ!」
博己は優子を膝枕で頭を支えていた、そのことに気づいた優子は少しびっくりした表情を見せたが、それも勝手な好意へと変換していく。
(ああ、やっぱり博己様は私にやさしい…もうこれ実質恋人なのでは???)
「なにを思っているのかは知らんが絶対に違うぞ」
また同じようなやり取りをして、優子は心の中でほくそ笑んだ
しかし、ある疑問が優子にはあった。
いくらなんでも、私という病んだ少女の扱いがうますぎる。
それは優子には気がかりだった。
大体のヤンデレ…まあ、何かしらの精神疾患を抱えているものは、自分の症状に気付きにくい。
それは自分の中で、あまりにも日常的すぎて気づかない、そういうのが殆どだ。
しかし、稀に自分の症状を理解した上で、それに上手く付き合っていく人間というのもいる。
優子もそんな中の一人だった。
自覚しているからこそ、妄想というのは止められないが日常生活でそれを曝け出すことは無い。
優子の博己を見つけた時の感覚がそれだ。
(なぜ、私を気持ち悪がらないんでしょう)
それは優子自身も自覚していなかった症状の緩和の表れだったに違いない。
しかし、それでも博己には好意というのが増すばかりだった。
実は、博己と優子の出会いは、何も消しゴムただ一つで恋に落ちたわけでは無い。
もっと前に出会っていたのだ。
優子はその事を鮮明に覚えている、症状というのもそこから始まったものだとも自覚はしていた。
だから博己が自分の事を忘れていることで病みが進行し、あのような奇行に走ってしまった。
優子がその事を自覚するのはまだ先の事だった。
「本当に大丈夫か?すまんな四月一日…」
博己は優子の顔を覗き込む。
すると優子は、博己に唇を近づけた。
それに反応した博己はサッと避ける。
「全く、油断もない奴だな」
「ふふ、すみません…それとお願いなんですが…」
「なんだ?」
「私のことは優子と呼んでください」
「ああ、分かったよ優子さん」
「さんは要らないですよ?」
「やめろ、いつのまにか持ってきたカッターをチリチリするんじゃない」
優子は一拍おき、ため息を吐く。
どうも博己の前だと調子が狂うようだ。
それでも病的なまでの愛というのは変わらない。
「だったら今日は泊めてください。女の子に酷いことしたんですから、これは当然の責務です」
「いや、家には姉がいるから」
「だったら好都合です。そういった外堀から埋めていきます」
「そういったことは心で思っても口に出すことではないぞ」
と、博己は観念した様子で今日だけ優子を泊めることにした。
まあ姉もいるし代丈夫だろうといった安易な気持ちだ。
「ご両親には?」
「家には殆ど帰らない人たちですので、大丈夫です」
「……母親だけにメールでもいいから連絡しとけ」
「はい」
優子は極めて簡素なメールを親に送る。
そして携帯の電源を切り、博己に向き合う。
「私すごい楽しみですよ?博己様」
「その、様やめないか?優子さん」
「さんを辞めるなら、辞めます」
「分かった、お前の勝ちだ優子…」
博己が観念したかのように両手をあげる。
すると優子は嬉しそうに…
「はい!博己くんっ!」
と、博己には向かって満面の笑みを浮かべるのだった。
そして、この時博己は理解はしていなかった。
優子を泊める…その行為がとてつもない危険だということに。
家には普通じゃない姉、静香がいる。
もし、優子と相対した場合。
「はーい、おかえりー博己ちゃ…………は?」
「初めまして、私は博己くんの…………は?」
二人は感じ取る、同類という匂いを。
少しでも面白いと思っていただければ、ブクマや評価などしていただけると幸いです。
誤字などありましたら是非教えてください。
あれ?ヤンデレ要素あまりなくない?そう思った貴方…私もだ…
次回はヤンデレ色が強くなります。
まあ、ヤベー奴が揃っちゃうと…ね?