空手をやってみよう!(1)
その日の夜、博己は姉の静香と一緒にテレビを見ながら、たわいもない話をしていた。
今日の学校のことは、昨日とあまり変わらずと言ったところで、静香もさほど気にかけてはいなかった。
というのも、静香自身…
(博己ちゃんの事一番よく知ってるのは私だからね…)
と、心の中で今日の優子が見せたような薄ら寒い笑みをこぼしていた。
そして、博己の入浴中に静香が乱入するという事件も発生。
「ちょ!姉さん!」
「いいじゃない、いいじゃない」
服の上からでも分かるような、大きな胸をさらけ出し博己に押し当てる。
いくら姉だからと言って思春期の男子にする事ではない…!と博己は姉を少し退かし、隙を見て風呂場から出て行った。
◇
そして次の日、博己は優子を見つけると同時に話しかける。
「よ!おはよう」
「え?は、はい…おはようございます…」
まさか博己が挨拶してくれるとは思わなかった優子は、クラス内であるため表には出さないが、裏では(え!?え!?何ですか!?いきなり話しかけてきて!?もしかして昨日言っていた友達になろうというのは嘘で、本当は恋人になろうという意味だったのですか!?そんな!嬉しすぎます!いいですよ博己様!いつでも私はゴムを用意して待っています!穴ありですけど!)と脳内妄想を繰り広げており、授業どころではない状態であった。
「はい、じゃあここの問題を四月一日さん」
「……えへ」
「…四月一日さん?」
「……えへへ」
と、先生が優子を指名しても、妄想に耽っており今日の授業中は上の空だった。
そして、長ったるい授業も終わり、放課後。
博己は昨日言っていた約束をするため、優子に話しかけた。
「おい、四月一日さん」
「……えへ」
まだこの状態なのか…と博己は呆れる。
博己は優子の肩に手を当て揺さぶる。
「おーい!四月一日さん」
「えへへ…はっ!」
優子は博己の存在に気付き、博己の手が置かれている肩に目をやる。
「もう一生、この肩洗いません!」
「いや汚いから洗ってくれ」
と謎の問答をした後に、町の空手の道場に向かった。
「ここだ」
「ここが私たちの愛の巣ですね!」
「違うよ?」
「え?」
そんなことを言いながら、鍵を取り出して道場の中に入る。
博己は道場主…博己の師匠とも言える存在から信頼されており、たまに稽古がしたくなったら勝手に使っていいと言われている。
中に入ると、傷だらけの道具や床、何かで抉れたような跡があちこちに点在している。
「…すごい傷だらけですね」
「そうだなぁ」
博己はそう言いながら片っ端から窓を開けて行く。
「道着は俺のカバンの中に入ってるから取り出してくれ」
「はい」
優子は素直に博己のいう事を聞きテキパキと準備をしていく。
やけに大人しいな?と思いながら博己は掃除をし始めた。
実のところ、優子にはある作戦を練っていた。
その名も『博己様を無理やり襲おう!』作戦である。
内容は簡単、二人きりになったところで押し倒して既成事実を作る。
しかし、これは好都合だと優子は思う。
最初は絶対に人がいるだろうと思い、隙を見計らって二人きりになろうとしていた。
しかし今、この道場には優子と博己は二人だけしかいない。
絶好のチャンスだ。
優子は道着を着ながら悪い笑みをこぼす。
(絶対に赤ちゃんを作ってやる…………!)
そう胸に決意を抱き、道場へ入っていった。
「よう、遅かったな」
優子の目の前には道着に着替えた、博己がいた。
道着がよく似合っている…と優子は心の中で気持ち悪い笑みを浮かべるが、それ以上に博己の筋肉に目がいった。
(きゃああああああ!はしたないはしたないはしたないいいいいいい!)
それは優子や細い筋肉が好きな人たちにとって目が潰れるほどの美貌であったに違いない姿がそこにはあった。
腕は程よく血管が浮き出ており、筋肉の盛り上がり方がセクシーだった。
そして道着の上からでも分かる、シックスパックの体。
それは優子にとっては刺激が強く、表はニコニコしているが裏は鼻血が止まらない状態だ。
計画がどこかへ吹っ飛んでいくぐらいの衝撃だったに違いない。
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