ボランティアをしてみよう!(2)
春分祭には文化祭ほど力は入れてはいないがそれでも準備期間になると生徒は慌ただしくなる。
この時期に祭ごとをするのが珍しく今年も多くの一般参加者が来るだろう。
しかし、そんな楽しい時間にも問題は付き物である。
「さ、博己そこで君の出番だ」
「はあ」
博己の席の前に立つメガネをかけ髪をぴっちりと校則を完璧に守った七三分け、殆どの人間が真面目な好青年だと思う格好をしている。
この男の名は八野宮貴樹、この風紀委員会の委員長である。
博己とは空手の試合で出会い、貴樹は今は三年の最上級生だ。
「この春分祭ではかなりの不良たちがくる」
「ええ、貴方目当てにですね」
「ああ、そうだとも全くモテる男は辛いな!」
あっはっは!と豪快に笑う博己の先輩。
博己はあまり変わってないなと苦笑した。
◇
それは博己が中学の空手の全国試合に出場し、決勝まで勝ち進んだ時のことであった。
これまでの博己の戦績は生涯において負けなしであり、戦った選手は博己の正拳突きを目の当たりにして気絶するほどであった。
後に全中空手の試合には出場停止がかかる異例中の異例。
誰もが博己の決勝戦に注目して相手の選手は三年で今年最後の試合、かわいそうに…と会場からため息が漏れでる程であった。
畳の上で両者が対峙する。
この時の博己は何か違和感を感じていた。
(気配を感じない?)
そして勝負は一瞬で始まる。
いつのまにか肉薄していた相手選手の前蹴りを博己はかろうじて手で受け止める。
しかし、力が強すぎるのと隙を突かれたため弾き飛ばされた。
博己は思った。
(こいつ、俺と同じ…!)
今までの試合のデータというものは相手には無かった。
そう持ち前の影の薄さを利用し、そして強さも徹底したスポーツ空手を中心に使っおり、正直言って博己には見飽きたと言ってもいいほどの隙だらけの空手だった。
しかし今目の前にいる男は違う…身を半歩下げ、重心を低く落とし手を前に突き出す。
古流空手の防御の構えの前羽の構えだった。
男はその体制から息を吐くように言う。
「名乗れよ」
「……ああ」
博己も構えをファイティングポーズから重心を落とし左手を上、右手を下にして構える。
天地上下の構えである。
もうこうなったら全中空手どころの話ではない、先に寸止めではなく当ててきた相手の反則負けである。
しかしこれは武人と武人との戦いだ。
「八野宮流、八野宮貴樹」
「斎賀流、稲垣博己」
決闘の結果は僅差で博己が勝利を収めた。
しかし、二人とも意識が朦朧としており、傷があちこちに出来ており、その激しさから全国空手大会に参加していた中で誰一人として止められなかったと思わせる後である。
そこから二人は親友になって行った。
後で全ての大会の出場停止を言い渡されたのは言うまでもない話だ。
◇
「いやあついつい悪を見ていると手を出してしまう」
どこのヒーローもドン引きしそうなセリフを吐く貴樹。
つまりはそういうことだ、悪事を働く不良たちをこの街一人残らず叩きのめしたのでもしかしたら大軍引き連れてやってくるかもしれないと貴樹は思ったのだ。
そんな心中を察した博己は心底嫌そうな顔をする。
「ふふふ、そんなに嫌な顔をしても無駄だぞ?」
「それに加担したこともありますしね…」
博己は事あるごとに貴樹に暴走族退治をしに行こうと、マックに行こうぜ感覚で誘われて暴走族を殲滅しに行ったこともある。
先輩は本当に戦闘狂だなとため息を何度吐いたことかわからない。
おそらくこれも一生続くのだろうと博己は観念して、貴樹に言われた通りに当日は厳戒態勢を二人で敷くことになった。
「で…聞きたかったのだが…」
「なんでしょう」
「そのお前の隣に鎮座している女性は?」
「ああ、そうですね…」
実は風紀委員会室に優子と二人で来てしまっていたのだった。
仕方がない、勝手についてきたのだ。
気づいた時にはもう隣で座ってくつろいでいた。
「優子」
「はい」
「自己紹介してくだせえ」
「わかりました…初めまして八野宮先輩、私の名前は四月一日優子と申します、以後お見知り置きを」
「ああ、四月一日君だな!よろしく頼む!……それにしても…なぜ彼女はこんなに殺気を放っているのだ?」
「…聞かないであげてください」
それは俺も聞きたい。
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