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転生したら逃げ馬になった件  作者: たこやき
1/4

はじめてのレース

    1


『さぁ、レースは大ケヤキの向こうを通りまして第三コーナー。先頭は相変わらず、ファントムブルー。後続を三馬身ほど離して快調に飛ばしております』

 場内実況の声が響き渡る東京競馬場。僕は、そんな競馬場でレースに参加していた。


「うぉおおお!! こっえええ!!」


 何とか自分を制止しようとする騎手の手綱なんて気にしていられない。首を持ち上げて無理矢理に走る。走りづらい。でも、それでも態勢を変えようとは思わない。なぜならば、僕の後ろからは、体重五〇〇キロを超える馬たちがものすごい勢いで迫ってくるからだ。

 あんな連中の集団に入ったら死んでしまう! それに比べれば、無理矢理な態勢で走ることなんて苦でも何でもない。


 ……そう、僕は今、レースに参加している。

 騎手としてではなく、馬として……


    2


「いやー、ひっどいレースだったな」

 検量室前で、僕と騎手を出迎えた恰幅の良い男が開口一番言い放つ。僕の担当している調教師の松永博だ。ごま塩頭に、でっぷりと張った太鼓腹という容姿は、いかにも田舎のおじいちゃんという感じだが、毎年、リーディングトレーナー争いに必ず顔を出す栗東トレセンでも屈指の敏腕調教師だ。

「先生、すいません。どうしても引っかかってしまって……」

 謝っているのは、僕に乗っていた騎手の川上勇気。デビュー三年目の若手騎手だが、去年はリーディングジョッキーのベストテンに入るなど、将来有望な騎手として期待を集めている。松永が彼を起用しているのも、その将来性に期待しているからだろう。

「まぁ、しょうがないわな。アレだけイれ込んでいるんじゃ、竹田や、トウカツだって制御できねぇよ」

「いえ……竹田さんや、藤堂克也さんならもうちょっと折り合いがついたと思います」

 恐縮して返す川上。

 どっちにしても、今日のレースが最悪だった、という結論は変わらない。そして、その原因はすべて僕の走り。そりゃあそうだ。スタートからゴールまで、ずっと口を割り、首を上げて走るレースっぷりを披露してしまったのだから。そんな僕の感想を代弁するように松永が言う。

「とにかく、レースっぷりとしては最悪。でもな、最悪なレースをしても、先頭でゴールしたことが重要なんだよ。馬にレースの仕方を教えることはできる。でも、未勝利で出走できる期間は限られている。勝ち星を挙げるってことは、レースの仕方を教える時間も稼げるってことなんだからな」

 松永の言うとおりだ。

 日本中央競馬会、通称JRA。世界で最も馬券の売り上げが多いこの競馬主催者のレース体系は完全なる勝ち上がり制を採用していて、優勝した時だけ加算される賞金によってクラス分けがなされている。そして、その底辺と言える「未勝利」の馬が出走できるのは、二歳の夏から三歳の秋までの一年ちょっとの期間しかない。もし、この期間に勝つことができないなら……

 待っているのは地方競馬への移籍、もしくは……引退だけだ。

 そして、引退をしても、未勝利であった馬に未来はない。体重五百キロを超える巨体を誇り、自然に死ぬまで二十年以上もの寿命があるサラブレッドをずっと生かしておくだけの余裕は日本の馬産界にはない。

 つまり、未勝利での引退というのは、そのまま死に直結する。だからこそ、どんな形でも一着になる、というのは大事なことなのだ。


 ……そう、僕が競走馬としてこんな無様な走りを披露することになったのも、それが原因なのだから……

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