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追い求めるのは、調和


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次の日から、彼女は毎日ベンチへきた。

僕の中で彼女は不思議を通り越して得体の知れない存在だった。

それなのに僕がベンチに毎日訪れたのは、僕の唯一の憩いの場をこんな女子に取られたくないというただそれだけだったのかもしれない。

とにかく結果としては僕と彼女は毎日同じベンチに座っていたわけだ。

ここ数日で彼女について分かったことは少しだけ。

名前は、一条 夕嘉。

最初に聞いた時は似合わない名前だと思った。“ゆう”は優しいの“優”かと思ったからだ。彼女は優しくなんて、ない。

年は、同い年。

肩下げ鞄をいつも所持していて、時たまそこからスケッチブックを取り出しているところをみると絵を描くのが趣味なのかもしれない。

他のことはまだよく分からない。

そもそも、僕が彼女に尋ねないかぎり彼女から話しかけてくることは無い為、2人の間に会話が成立しないからだ。

“観察”とはよくいったもので彼女は黙って無表情のまま隣に座ると、時々僕を吸い込まれそうな黒い瞳で見るだけだった。


「僕なんか見て楽しいの。」

「そうだな、世間一般としては楽しくないかもしれないな。」

彼女は無表情に、淡々と言葉を紡ぐ。

「…しかし、世間論が全て一個人に当てはまるなどということはない。

よって、私は君に興味がある。」

「…ふぅん。」

悪趣味。心の中でそう呟いた。

だって、そうだろう?

人の不幸は蜜の味とかいう。

彼女だってたとえ喜んでいなかったとしても、僕を観察対象にしているんだから。


ーなんで最近帰りが遅いのよ。

ー残業だよ。

ー本当は女と会ってんじゃないの!?

ー馬鹿言うな!


頭の中を流れた父さんと母さんの映像と音声を首を振って振り払うと僕は手で顔を覆った。


ああ、どうすればいいんだろう。


彼女の視線を感じながら、僕はぐるぐるとそんなことを考え続けていた。


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