青
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出会いと、メランコリー
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僕は校舎裏の片隅に置かれているベンチに腰掛けていた。
授業と授業の間の昼休み。
しかし目の前には人っ子1人、いない。
理由は一つ。ここに来る意味がないからだ。
校舎裏であるためにここは薄暗く、広いわけでもないのでスポーツには不向き。
桜の木があるにはあるのだが、今は10月。
緑から黄色や茶色になり、力無く落ちた葉をさぁ…と吹いた風が運んでゆく。
こんな寂れた場所は今の僕には丁度いい。
僕は落ち葉が重なる地面を見るともなしに見つめ、考え事に浸っていた。
その時、視界の中に人の足が入ってきた。
黒のローファーに黒いタイツ。
女子か。
頭が、認識する。
ただ、通り過ぎるのではなく、その足は俺の目の前で立ち止まった。
意外に思った僕は少し顔を上げた。
目の前にいたのはやはり、女子だった。
身長は座っている僕と丁度目が合う程。
白い肌に映える真っ黒な髪を風に靡かせ…
彼女は吸い込まれそうなほどの黒い瞳で僕を見た。
そして、一言だけ言った。
「君、いい具合に病んでいるな。私に付き合え。」
「…は?」
言っている意味がわからない。
戸惑う僕を他所に、彼女は黙って僕の隣に座った。
これ以上口を開くことはなさそうなので彼女の言葉の内から考える。
「僕が、病んでるって…?」
僕がベンチに座っている状況で、立っている彼女と目線が同じだったのだ。
座ると僕が見下ろす形になる。
「事実だろう?」
当たり前だ、と言いたげに彼女は見上げた。「家庭のことで鬱々とした気持ちになっているのではないかね?」
「!」
それは紛れもなく事実、だった。
僕が最近悩んでいるのはまさにそれが原因だ。
問題は何故彼女が知っているか、だ。
「なんであんたがそんなことを…。」
「調べた。」
強張った顔で尋ねる僕を見ずに、彼女は端的に答えた。
「調べた…って個人情報じゃないか。」
「情報とは案外容易く手に入るものだよ、 篠塚 真紘君。」
「っ!」
本名を呼ばれ、より警戒を強めた僕を彼女は顔色を変えることなく見つめた。
「心配するな。この情報を誰かに言いふらしたりするつもりは毛頭ない。ただ、私は君を…そうだな、“観察”したいだけだ。」
「観察…?」
「うむ。」
僕は顔をしかめて、呟いた。
「…あんたがなに言ってるか、分からない。」
「分からなくても構わない。君は被観察者なのだから。」
そういって彼女は口角を少しだけ釣り上げた。
その時はわからなかったが、それが彼女の“笑うという動作”だった。