第8章:地下墳墓の「在庫整理」 —— 誠実な鑑定士と、あまりに安全な現場
第8章:地下墳墓の「在庫整理」 —— 誠実な鑑定士と、あまりに安全な現場
王都の喧騒を離れ、盆ちゃん(と、大型犬を装った銀狼ポチ)がやってきたのは、冒険者たちの間で「初心者殺しの迷宮」と悪名高い『黒鉄の地下墳墓』の入り口だった。
「なるほど。ここが噂のダンジョンですか。……ううむ、入り口からしてコンプライアンスの欠片もありませんね。段差は激しいし、照明は暗い。これでは労災が起きてもおかしくありません」
盆ちゃんは腕組みをし、現場監督のような厳しい目つきで洞窟の入り口を眺めた。
(主よ。ここは墓場だ。死者が安らぎ、侵入者を呪い殺すための場所だぞ。バリアフリーを求める方がどうかしている。……おや、先客がいるようだな)
ポチが鼻を鳴らした先に、一人の少女が座り込んでいた。
使い古された眼鏡を直し、山のような古文書と格闘している彼女の名はミナ。
この世界では珍しい【精密鑑定】のスキルを持ちながらも、「真実を言い過ぎる(例:この宝剣は実はレプリカです、等)」性格が災いし、どのパーティーからも追放された不遇の鑑定士だった。
「あ、あの……! そこのお兄さん、入るなら止めたほうがいいですよ! 今、地下1階の魔物密度が異常上昇していて……まさに『整理されていない倉庫』状態なんです!」
ミナは必死に声をかけた。彼女の鑑定眼には、地下から溢れ出す絶望的なまでの「不浄な魔力」が見えていたのだ。
「おや、ご丁寧にありがとうございます。整理されていない倉庫、ですか。それは聞き捨てなりませんね。私、そういう『乱雑な空間』を見ると、どうしても血が騒いでしまう質でして」
盆ちゃんは人当たりの良い笑みを浮かべ、胸ポケットから名刺を取り出した。
「私、こういう者です。もしよろしければ、現場の『棚卸し』、ご一緒しませんか? 鑑定士さんのお力があれば、作業が捗りそうです」
「えっ……め、名刺? 冒険者が名刺……? キャッ、何この紙!? 鑑定できないほど高密度なエネルギーが……って、待ってください! 行かないでー!」
なし崩し的に、ミナは盆ちゃんの「視察」に同行することになってしまった。
【地下1階:不衛生なエントランス】
一歩足を踏み入れると、そこは湿った冷気と、腐敗した死者の匂いが漂う空間だった。
壁には不気味な粘液が付着し、暗闇からはスケルトンたちの骨が擦れる音が聞こえてくる。
「……ひっ! 出た! スケルトン・ソルジャーです! Cランク相当の……」
「これはいけません」
盆ちゃんが、ミナの言葉を遮るように一歩前に出た。
「床に骨が散らばっているなんて、整理整頓の基本ができていません。ポチ、ほうきを」
「ワオン(ほれ、主。いつもの『銀河の塵を掃く者』だ)」
盆ちゃんが取り出したのは、一見すると何の変哲もない竹ほうきだった。しかしミナの眼鏡(鑑定ログ)は、その瞬間、真っ赤な警告音を鳴らした。
『鑑定不能:存在強度がこの世界の物理的限界を超えています。属性:概念抹消』
「掃除の基本は、奥から手前へ。失礼します」
シュッ。
盆ちゃんが軽く床を掃いた。
ただそれだけ。
しかし、掃き出された風は純白の浄化波動となり、襲いかかろうとしていた十数体のスケルトンを一瞬で「綺麗なカルシウム粉末(無臭)」へと変え、そのまま床のひび割れを埋めるパテへと再利用してしまった。
「……え?」
ミナは目を擦った。
目の前の通路が、一瞬にして高級ホテルの大理石の廊下のようにピカピカに輝いている。不気味な粘液も、カビも、呪いも、すべてが「掃き出されて」消えていた。
「よし、足元が明るくなりましたね。ミナさん、この魔物たちが持っていた武器……これは『廃棄物』ですか? それとも『備品』ですか?」
盆ちゃんが指差したのは、スケルトンが持っていた錆びた剣の成れの果てだ。それはいまや、盆ちゃんのスキルの影響で、不純物が完全に除去された**【超高純度ミスリル塊】**へと精錬されていた。
「は、廃棄……いえ、これ、一国を支えるレベルの聖遺物素材になってますけど!? え、何、何が起きてるの!?」
「なるほど、リサイクル可能な資源ですね。では、こちらのコンテナ(自作の亜空間ボックス)に仕分けしましょう」
【地下2階:動線の確保】
探索(という名の清掃)は続く。
迷宮特有の「落とし穴」や「矢の罠」が現れるたび、盆ちゃんは「欠陥住宅ですね」と嘆き、持参した金槌で壁をコンコンと叩いた。
「よし。これでバリアフリー化完了です」
盆ちゃんが叩いた場所からは、物理法則を無視してスロープがせり出し、罠のあった場所には「足元注意」という可愛らしい装飾の看板が自動生成された。
「……あの、盆栽さん。ここ、ダンジョンですよね? 命のやり取りをする場所ですよね? なんでさっきから、歩くたびに私の魔力が回復して、お肌がツヤツヤになっていくんですか?」
「それはきっと、環境が改善されたからでしょう。空気が淀んでいると、効率が落ちますからね」
盆ちゃんが「消臭・芳香」のために置いた、ただの松の盆栽。
ミナの鑑定眼によれば、それは**【周辺一帯の因果律を安定させ、不老不死の領域を展開する神の苗木】**だった。
「……私、鑑定士やめます。こんなの、鑑定してたら脳が焼き切れちゃいます……」
「おや、それは困りましたね。まだ地下3階の『在庫確認(ボス部屋)』が残っています。ミナさんの正確な鑑定があれば、不良在庫(魔王)の処分もスムーズにいくはずですから」
盆ちゃんは、呆然とするミナの手を優しく(そして物理的な無敵付与を伴って)引き、さらに深くへと進んでいく。
ダンジョン最深部で、侵入者を待ち構えていた古代の魔リッチは、この時まだ知る由もなかった。
自分という存在が、もうすぐ「不燃ゴミ」として丁寧に処理される運命にあることを。
報告:第8章の「規格外な変貌」
1. ダンジョンの「観光地化」:
盆ちゃんが通過した浅い階層は、魔物が一切湧かなくなり、呼吸するだけで肺が浄化される「超高度療養施設」へと変貌。後にここを訪れた冒険者たちは、あまりの快適さに戦う意欲を失い、全員がピクニックを始めてしまう。
2. 新キャラクター・ミナの受難:
「真実を見抜く」スキルを持つがゆえに、盆ちゃんの「異常な日常」をすべて理解してしまい、ツッコミが追いつかずに精神的オーバーロードを起こしかけている。しかし、盆ちゃんから渡された「おやつ(神界の干し芋)」を食べたことで、ステータスが魔王を凌駕し始めている。
今回は前半後半の2部構成にしてみました(* ˊ꒳ˋ*)




