表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真桃太郎演義  作者: さばさば


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/8

第7話

朝の空気は、やけに澄んでいた。

まるで、この日を覚えているかのように。


桃太郎は家の前に立ち、草履を履き直す。


「……行ってきます」


静かに言うと、おじいさんは薪を割る手を止め、こちらを見た。

深い皺の刻まれた顔で、ゆっくり頷く。


「戻る場所は、ここにある」


それだけで十分だった。


おばあさんは、何も言わずに近づき、

そっと桃太郎の胸元を整える。


「...体に、気をつけてね。

無理しないで、いつでも帰ってきていいんだからね。」


その声が少し震えていたから、

桃太郎は笑おうとした。

でも、うまく笑えなかった。


「……必ず、生きて帰る」


深く頭を下げ、家を出る。

振り返らなかった。

振り返れば、足が止まる気がしたから。



村を抜け、山道へ入る。


木々が密になり、

鳥の声が遠のく。


そのときだった。


「やはり、来たか」


背後から、しわがれた声。


振り向くと、

いつからそこにいたのか分からない老人が立っていた。


白い髭。

杖も持たず、

だが、山そのもののような存在感。


「誰だ」


桃太郎が問うと、老人は笑った。


「名乗るほどの者ではない」


そう言って、腰の袋から包みを取り出す。


「これを渡しに来た」


包みの中には――

キビ団子が五つ。


淡く光り、

触れる前から温かさが伝わってくる。


「キビ団子……?」


「そうじゃ」


老人は、桃太郎の目をまっすぐ見た。


「一つは、お前自身のため。

残り四つは、お前の旅が意味を持つ時に使え」


「意味……?」


「今は、分からん」


老人は、どこか懐かしそうに言う。


「だが、お前は必ず、その時に出会う」



桃太郎は、一つの団子を手に取った。


理由はない。

ただ、今食べなければならないと、

体が理解していた。


口に入れた瞬間――

世界が揺れた。


熱。


胸の奥で、

何かが弾ける。


呼吸が乱れ、

膝をつく。


「……っ!」


痛みではない。

苦しさでもない。


力が、目を覚ます感覚。


桃太郎は剣を抜いた。


――ゴウッ。


刃に沿って、

炎が生まれる。


赤く、激しく、

だが暴れていない。


炎は、桃太郎の呼吸に合わせて揺れていた。


「……俺が、操ってる」


老人は静かに頷く。


「それがお前の潜在能力じゃ。

意志を炎に変え、操る力」


怒りでも、憎しみでもない。

恐怖でもない。


守ると決めた覚悟が、炎になる。



「忘れるな」


老人の声が低くなる。


「心が乱れれば、炎も乱れる。

使い方を誤れば、全てを焼く」


桃太郎は立ち上がる。


剣を握る手は、震えていなかった。


「……それでも、俺は進む」


老人は、満足そうに微笑む。


「よい炎じゃ」



風が吹いた。


木々が揺れ、

霧が流れる。


次の瞬間、

老人の姿は消えていた。


手の中には、

確かに残る五つのキビ団子。


炎を消し、剣を収める。


桃太郎は前を見る。


この先に、何が待っているのかは分からない。

だが、もう立ち止まらない。


「行こう」


これは、力を得た物語ではない。


戦う覚悟を、炎として宿した日の物語だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ