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真桃太郎演義  作者: さばさば


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4/10

第4話

山を下りたとき、

桃太郎は異変に気づいた。


静かすぎる。


鳥が鳴かない。

風も、止まっている。


胸の奥が、ざわついた。


「……いやな感じがする」



村が見えた瞬間、

その予感は、現実になった。


煙。


家は壊れ、

地面は荒れ、

酒の匂いが、鼻を刺す。


「……え?うそ……」


足が、すくむ。



そのとき。


地面が、揺れた。


木々を押し倒しながら、

“それ”が現れる。


赤黒い肌。

角。

歪んだ笑み。


酒呑童子。


「……っ!!」


声にならない叫び。


視線が合った瞬間、

心臓が、凍りつく。


『あ?』


『ガキが一匹残ってやがる』


その声だけで、

涙が溢れた。


「や……やだ……」


体が、動かない。


『ほう、泣くか』


酒呑童子が笑う。


『いいな、人間は』


『簡単に壊れる』



熊が、前に出る。


『……下がれ』


だが桃太郎は、もう限界だった。


「いや……」


「いやだ……!」


涙と鼻水で、

視界がぐちゃぐちゃになる。


『逃げろ!!!』


熊の怒号。


その瞬間、

体が弾かれたように動いた。



走る。


転ぶ。


立ち上がる。


泣きながら、叫びながら、

ただ必死に逃げる。


「こわい……」


「たすけて……!」


背後で、

轟音。


熊の咆哮。

酒呑童子の笑い声。


怖くて、

振り返れない。



森の奥。


息ができない。


足が震え、

その場に崩れ落ちる。


「……なにも……」


「なにもできなかった……」


ただ泣くしかなかった。


子どもだった。


圧倒的な“悪”の前で、

あまりにも無力だった。



夜。


酒呑童子の気配は、消えていた。


村は、静まり返っている。


熊の姿は――ない。


桃太郎は、

その場で泣き疲れて眠った。

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