第3話
それから、桃太郎は山へ通うようになった。
誰に言われたわけでもない。
朝になると体が勝手に山を向く。
熊は、いつも同じ場所にいた。
まるで――
最初から待っていたかのように。
『来たか』
それだけ言って、
すぐに修行が始まる。
⸻
最初に教えられたのは、構えだった。
剣はない。
拳も、蹴りも使わせない。
『立て』
『息を整えろ』
『地面を踏め』
それだけ。
何時間も、
同じ姿勢で立たされる。
足が震え、
汗が滝のように流れ、
何度も倒れた。
「……もう、むり」
弱音を吐いた瞬間。
ドンッ
熊の一撃で、
地面に叩きつけられる。
『足は崩れても、心は崩すな』
その言葉だけが、
胸に残った。
⸻
次は、投げ。
熊は容赦しない。
掴まれたと思った瞬間、
宙を舞い、
背中から落ちる。
息が詰まり、
視界が白くなる。
「……っ!」
『立て』
『また来い』
それの繰り返し。
だが、不思議なことに、
熊は決して致命的なことはしなかった。
限界の、一歩手前。
そこを、何度も踏ませる。
⸻
夜。
焚き火の前で、
桃太郎は倒れ込む。
「……ねえ」
「なんで、ぼくこんなことしなければいけないの?」
熊は、火を見つめたまま答える。
『考えるな』
『生きるために、強くなれ』
それだけだった。
でもその背中は、
どこか焦っているように見えた。
⸻
日々は、静かに過ぎていく。
・丸太を担いで山を登る
・滝に打たれて立ち続ける
・目を閉じて、気配だけで熊を探す
失敗すれば、叩き伏せられる。
それでも、
桃太郎は泣かなかった。
逃げなかった。
熊は、何も褒めない。
だが、手を抜くこともない。
それが、
何よりの答えだった。




