第14話
桃太郎達は次の村に着いた。
村は、静まり返っていた。
焼け跡の匂い。
崩れた家。
空だけが、やけに青い。
桃太郎たちは、その異様な静けさの中を歩く。
猿の目が、瞬時に周囲を読む。
「近くに鬼はいない。だが……人の気配もほとんどない」
虎が拳を握る。
「くそっ!
あいつら、どれだけの村を襲えば気が済むんだ!」
桃太郎たちが村を歩いていると、
一匹のキジが墓の前に立っていた。
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虚ろな表情でキジが振り向いた。
「……誰だ、お前たち」
声はかすれている。
翼には深い傷。
だがそれ以上に、目が死んでいた。
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桃太郎が問う。
「この村の人たちの墓か。」
キジは、小声で喋り始めた。
「俺は、この村の見張り役だった...」
「空から鬼の動きを監視する役目だった」
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村人は、キジを信じていた。
「お前がいれば安心だ」
「空は任せたぞ」
その言葉に、キジは誇らしかった。
高く飛べる自分。
誰よりも早く異変に気づける自分。
――自分は特別だ、と。
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だが、いつまで経っても鬼は現れなかった。
何日も。
何週間も。
空は、ただ平和だった。
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「たまには、いいだろ。
どうせ今日も来ない。」
キジは、監視を怠った。
少しだけ。
少しだけ低く飛んだ。
少しだけ、仲間と遊んだ。
少しだけ、油断した。
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その日だった。
鬼は、低い雲に紛れて来た。
見えない角度から。
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悲鳴が上がった時には、遅かった。
空に戻ったとき、
炎が上がっていた。
多くの死体。
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まだ息のあるものがいた。
キジは急いで駆け寄る。
「お前は空にいたんじゃないのか」
「見ていたんじゃないのか」
「なんで教えてくれなかったんだ」
その言葉が、今も耳に残る。
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キジは、桃太郎たちを見ずに言う。
「俺が、怠った」
「俺が、慢心した」
「だから、みんなが死んだ...」
風が吹く。
その風すら、キジには痛かった。
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猿が目を伏せる。
それは、自分にも重なる話だった。
期待されながらも、
役目を果たせなかったときの
苦しみが誰よりもわかった。
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桃太郎は、ゆっくり言う。
「鬼たちはおそらく今もどこかの村を襲っている。
俺たちは1人でも多く、村の人達を救いたい。」
キジは、黙って聞いている。
「今度はこの国の見張り役になってくれないか?」
「...こんな小さな村を守ることもできなかった俺に、そんな資格なんてない!」
キジはうつむきながら言った。
「いや、ある!」
キジは驚いた表情で桃太郎を見た。
「深い悲しみ。
後悔を背負っているお前だからこそ、
見張りの重要性を一番わかっているはずだ。」
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沈黙。
村の瓦礫が、風で鳴る。
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桃太郎は、キジの前に立つ。
「お前の力を貸してほしい」
キジはうつむきながら黙り込んでいた。
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キジの目が揺れる。
「……守りたい。
今度こそ守りたい...」
本音だった。
空を見るたびに、
あの日を思い出す。
「うん。
お前ならみんなを守れる」
桃太郎は優しく微笑みながら言った。
「……俺は弱い」
キジは言う。
「慢心する」
「油断する」
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猿が答える。
「それは過去の話だ。
今のお前なら絶対にそんなことはしない。
俺にはわかる。」
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キジは、猿を見る。
その目は、まだ罪を抱えたままだ。
だが、決意の光も宿っていた。
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「行く」
小さく、しかし確かに言った。
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空は、相変わらず青い。
キジは空を見上げた。
その顔にはもう、迷いはなかった。




