第12話
山道。
桃太郎と虎は、
鬼の噂が絶えない山を進んでいた。
「この山、なんか嫌な匂いがするな」
虎が低く唸る。
「ああ...
血生臭い。
吐き気のするような匂いだ。」
険しい表情で
桃太郎が言った。
⸻
その時。
――パチン。
小石が、桃太郎目がけて飛んできた。
桃太郎はさらりとかわした。
「鬼か!」
次の瞬間、
頭上から笑い声が降ってくる。
「ははっ、よくかわしたな人間。」
枝の上。
「違う。鬼じゃない」
桃太郎が言う。
痩せた体、鋭い目。
一匹の猿が、腕を組んでこちらを見下ろしていた。
⸻
虎が一歩前に出る。
「なんだお前」
「俺はこの山に長年住んでいる猿。
お前達こそ何者だ?
初めて見る顔だな。」
桃太郎が言う。
「俺は桃太郎。
こいつは虎だ。」
「俺たちはこれから
鬼退治に行くんだ。」
「はー?鬼退治?
アホか。
あいつらとまともにやり合って
勝てるわけがない。」
猿は言う。
「いや、俺たちは必ず勝つ。
勝たなきゃならないんだ」
迷いの無い桃太郎の言葉。
(なんだこいつ。
完全にイカれてる。)
「ふーん。
ま、俺には関係ないこった。」
次の瞬間。
――ヴォー!
山の奥から、鬼の咆哮が響いた。
⸻
「……け!
また来やがったか」
猿の表情が、一瞬だけ歪む。
「鬼が来るぞ。
お前達早く逃げた方がいいんじゃねえか?」
猿が言う。
桃太郎は、猿を見上げたまま言う。
「俺たちは鬼を迎え打つ。
お前は逃げろ。」
猿は笑った。
「冗談だろ」
「ここは、俺の縄張りだ。
お前達に守られんでも、
逃げ切れるさ。」
「そうか」
⸻
鬼が現れる。
「へへ、獲物見つけたー。
さっきから腹が減って
困ってたところだ。」
「今は猿を喰いたい気分だ。」
鬼は悪い笑みを浮かべて、
猿を睨みつける。
「ハハ。
鬼さんこちら〜。
テメェなんかに捕まるか」
猿が鬼を挑発した。
「へー、イキがよくて嬉しいぜ」
鬼は猿目がけて走り出した。
猿は枝を蹴り、
目にも止まらぬ速さで動く。
石を投げ、
視界を奪い、
鬼を翻弄する。
「ぐ、ぐぬぬ」
「は、速い。
なんて速さだ。
たしかにあのスピードなら
捕まることは無さそうだな」
桃太郎が驚きながら言う。
「たしかに速い。
とんでもないスピードだ。
だがあの鬼、なんか変だ」
虎が険しい表情で言う。
「変?」
「ああ、なぜか笑ってやがる。
あれだけの速度で翻弄されてるのにだ。」
そのとき、鬼は動きを止めた。
猿の動きを目で追っている。
「グルルル。
ガー!」
なんと鬼は口から炎を吐き出した。
「炎を吐き出した!」
桃太郎は驚きながら言う。
木々が次々と燃えていく。
「うわー!」
猿が木から落ちる。
鬼は笑いながら猿に近づいてくる。
ゆっくりと棍棒を振り上げる。
猿は恐怖で動けない。
「終わりだ」
カキーン
桃太郎が剣で棍棒を受け止める。
「お、お前」
「どうした?
余裕で逃げ切れるんじゃなかったのか?」
「あ、足を滑らせただけだ。」
「そうか」
桃太郎は少し笑みを浮かべて答える。
虎が鬼に噛みつき、そして殴る。
桃太郎が炎の剣で切りつける。
「グ、グルアー」
圧倒的な強さで
鬼を倒した。
「フー、
もう大丈夫だ」
桃太郎は笑顔で振り向く。
しかし、そこに猿はいなかった。
「あの野郎、逃げやがった」
虎が怒り気味に言う。
「そうみたいだな。」
桃太郎が無表情で言う。
「それにしても、あの鬼、
たしかに炎を吐いた。
今までそんな話は聞いたことなかった。」
「ああ、俺達が襲われたときも
あんな力は持っていなかったはずだ。」
虎が真剣表情で言う。
猿は木の上を高速で逃げていた。
「へへ、ラッキーラッキー。
あいつらのおかげでなんとか
助かったぜ。」
「あんな化け物に勝てるわけがねぇ。
俺の代わりに死んでくれや。
所詮、信じられるのは自分だけ。
他人は利用してなんぼよ。」
猿は笑いながら言う。
しかし一瞬、
どこか寂しい表情を見せた。
(他人なんて...)




