表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真桃太郎演義  作者: さばさば


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/12

第1話

山奥の開けた草地に、陽気な笑い声が響いていた。


「ははは!どうした熊!

そんなもんかよ!」


豪快に笑いながら、巨大な熊と向かい合っている男がいる。

筋骨隆々、赤い腹掛け姿。

腰には一振りの剣。


――坂田金時。


幼い頃から山で育ち、

怪力無双で名を馳せた男。

人は彼を、こう呼んだ。


金太郎。


「よし、来い!」


金時が腰を落とす。

熊も後ろ脚で立ち上がり、真正面からぶつかった。


ドンッ!


地面が揺れる。


「おおっ、今日は気合い入ってんな!」


熊が吠え、金時が笑う。

勝ち負けなどどうでもいい。

二人はただ、全力でぶつかり合うのが楽しかった。


相撲が終わると、金時は熊の背を叩いた。


「なあ熊。

俺な、守りたいもんが増えたんだ」


熊が耳を動かす。


「里に嫁さんがいてな……

小せえけど、元気な子もいる」


金時は照れくさそうに笑った。


「もう“金太郎”も卒業だな」


その瞬間だった。


空気が、凍った。


風が止み、鳥の声が消える。

熊が低く唸り、森の奥を睨む。


「……この感じ」


金時の表情が変わる。


闇の中から、重たい足音と、

鼻を突く酒の匂い。


現れたのは――

巨大な角、赤黒い肌、歪んだ笑み。


酒呑童子が配下の鬼を従えている。


「久しぶりだな、金太郎」


金時は息を呑んだ。


「……倒したはずだ」


「強大な力が、俺を呼び戻したのさ」


酒呑童子は愉快そうに笑う。


「俺はこの国を支配し、酒を飲み尽くし、

気に入った女を抱く」


「その邪魔になるのが――お前だ」


金時は、腰の剣を抜いた。

熊も並ぶ。


だが、次の瞬間。


「動くな」


鬼の腕の中にいたのは――

金時の妻と、幼い息子。


「……っ!」


金時の身体が、完全に止まる。


「一歩でも動けば、この子供から殺す」


酒呑童子の声は、楽しげだった。


金時は、剣を落とした。


そこからは、一方的だった。


拳が、

角が、

酒呑童子の力が、金時を打ち砕く。


反撃は許されない。

守るために、耐えるしかない。


血にまみれ、膝をつく金時。


そのとき――

熊が吠え、鬼へと飛びかかった。


一瞬の混乱。


「今だ……!」


金時は、最後の力で息子を抱き寄せた。


熊が鬼を抑え込む。


川辺にあった、桃の形をした舟。

理由など考えない。


「生きろ……!」


金時は、息子を舟に乗せ、流した。


妻の叫び声が、背後で途切れる。


金時は振り返らない。


父として、

金太郎として、

最後まで戦うために。



川は静かに流れる。


桃の形をした舟は、

夜明けの霧の中を、ただ進んでいく。



朝。


山あいの村で、老夫婦が川を見つめていた。


「……おや?」


流れてきた、不思議な舟。


引き上げると、中には――赤子。


「まあ……」


老爺が舟を見て言う。


「桃みたいな舟だな……」


老婆が微笑む。


「この子は、桃の舟に導かれてきたんだよ」


老爺は、静かに名を告げた。


「桃太郎」


その名はまだ、

鬼を討つ意味を知らない。


遠くの山で、

酒呑童子の低い笑い声が、響いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ