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無能扱いされた領主ですが、部下が優秀すぎて最強領地になりました ~切り捨てない統治は、才能だけを残す~  作者: 山奥たける


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第9話 選別

 選んだつもりはなかった。


 だが、結果として――

 選別は、すでに始まっていた。



 朝の執務室。


 机の上に並ぶ報告書の束は、以前より少ない。

 書類が減ったわけではない。

 書く人間が減ったのだ。


「……人数、確認しました」


 参謀が淡々と告げる。


「この三日で、十二世帯」

「想定より、早いな」

「ええ」


 それ以上、言葉は続かなかった。


 数字としては、まだ致命的ではない。

 だが、流れとしては――良くない。



 領主は、城下町を歩いた。


 視察ではない。

 確認でもない。


 ただ、見たかった。


 閉じたままの工房。

 看板を外した商店。

 空いた家の窓。


「……」


 声をかけられない人がいる。

 声をかけても、意味がない人もいる。


 その区別が、自然とできてしまっている自分に、

 領主は気づいた。



 市場の隅で、年配の男が声をかけてきた。


「領主様」

「どうした」

「残るつもりです」


 唐突な言葉だった。


「理由は」

「ここは……逃げない人間が、逃げない場所だ」


 領主は、返す言葉を探した。


 だが、見つからなかった。


「……無能だと、言われています」

「知っています」


「それでも、ここに残る」

「そうか」


 それ以上、話はなかった。


 それで、十分だった。



 城に戻る途中、参謀が言った。


「あなたは、人を選んでいる」

「……そうだな」


 否定はしなかった。


「無自覚に、だが」

「結果は、同じだ」


 参謀は、少しだけ表情を曇らせる。


「それは、領主の仕事だ」

「……そうかもしれない」


 だが、重かった。


 選ばれる側よりも、

 選ぶ側の方が、

 ずっと。



 夕方、執務室。


 魔法研究者が報告に来る。


「再発防止策は整いました」

「そうか」


「次は、問題ありません」

「“問題”とは、何だ」


 研究者は、言葉に詰まった。


 技術的な失敗。

 魔力の暴走。

 それらは、定義できる。


 だが、人が離れることは――?


「……分かりません」

「なら、慎重にやれ」


「はい」


 研究者は、深く頭を下げた。



 夜。


 領主は、一人、帳簿を閉じた。


 人口。

 備蓄。

 税収。


 どれも、まだ維持できる。


 だが、数字の外にあるもの――

 信頼、不安、覚悟。


 それらは、帳簿に載らない。


(これは、試されている)


 領地が、ではない。

 自分自身が。


 誰を守り、

 誰を守れないか。


 その線を、

 自分はすでに引いてしまった。


 無能と呼ばれる理由は、

 ここにもあった。



本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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