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無能扱いされた領主ですが、部下が優秀すぎて最強領地になりました ~切り捨てない統治は、才能だけを残す~  作者: 山奥たける


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第8話 去る者

 人は、理屈では動かない。


 ましてや、不安の前では。



 朝、城下町の門が、いつもより早く開いた。


 荷車が一台。

 それから、もう一台。


「……引っ越しか」

「らしいな」


 門番は、静かに見送った。


 止める理由はない。

 引き止める命令も、出ていない。



 執務室で、従者が報告する。


「今朝だけで、三世帯が町を出ました」

「理由は」

「明確には。ただ……不安だと」


 領主は、頷いた。


「そうか」

「……それだけですか」


 従者の声には、抑えきれない感情が滲んでいた。


「引き止めなくて、よろしいのですか」

「引き止めても、残らない」


「ですが、彼らは悪くありません」

「知っている」


 領主は、机の上の書類に目を落とす。


「だから、責めない」



 町では、あちこちで別れが起きていた。


「世話になったな」

「……ああ」


 握手は短い。

 言葉も少ない。


「ここ、嫌いじゃなかったんだ」

「分かってる」


 嫌いではない。

 だが、怖い。


 それだけで、人は去る。



 昼前、参謀が町を歩いていた。


 空いた家。

 閉まった店。


「……早いな」


 彼は、数を数えていた。


 人口減少は、戦争よりも静かで、確実だ。



 城の裏手で、魔法研究者が作業をしていた。


 焼け跡の整理。

 再発防止の準備。


「……出ていく人、増えましたね」


 誰に言うでもなく、呟く。


「あなたのせいではない」


 背後から、領主の声。


「……それでも」

「それでも、選んだのは俺だ」


 研究者は、何も言えなかった。



 夕方、城下町の掲示板。


 いくつかの張り紙が、剥がされている。


 住人募集。

 職人求む。


「……また減ったな」

「仕方ない」


 仕方ない、という言葉が、

 あまりにも軽く、あまりにも重かった。



 夜。


 城では、いつも通りの食事が用意された。


 席は、少しだけ空いている。


「……減りましたね」

「減ったな」


 それ以上、誰も言わなかった。



 食後、領主は一人、城の外壁に立っていた。


 灯りの数が、昨日より少ない。


(これが、選別だ)


 誰かを選んだつもりはない。

 だが、結果として、

 残る者と、去る者は分かれた。


 そこに、正しさは関係ない。



 遠くで、馬車の音が消えていく。


 領主は、目を閉じた。


 無能と呼ばれる理由は、

 まだ増え続けている。


 だが、それでも――


 彼は、このやり方を変えなかった。



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