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無能扱いされた領主ですが、部下が優秀すぎて最強領地になりました ~切り捨てない統治は、才能だけを残す~  作者: 山奥たける


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第6話 善意の結果

 実験は、朝から始まっていた。


 城の外れ、簡易工房の前。

 魔法研究者が地面に魔法陣を描き、数人の助手が準備を進めている。


「魔力消費は三割削減されます」

「理論上、ですけどね」


 研究者は気にした様子もなく答えた。


 彼にとって、理論は事実だった。

 現実が追いついていないだけで。



 領主は、立ち会わなかった。


 執務室で書類を処理しながら、

 報告が来るのを待っている。


(問題が出たら、止める)


 そう決めたのは、自分だ。


 だが、“問題”の定義を、

 彼は曖昧なままにしていた。



 異変は、突然だった。


 魔法陣の光が強まり、空気が震える。


「……数値がズレている」

「誤差の範囲です」

「いや、この揺らぎは――」


 次の瞬間。


 轟音。


 熱風。


 工房の脇にあった小屋が、炎に包まれた。


「水を!」

「魔法は使うな、余計に燃える!」


 混乱の中、研究者が叫ぶ。


「理論上は成功です!」

「今それ言うな!」


 助手の一人が、思わず怒鳴った。


 ――その瞬間だけ、場が少しだけ和らいだ。

 だが、すぐに現実が戻る。



 火はすぐに消し止められた。


 死者はいない。

 だが、軽傷者が出た。


 小屋は、完全に焼け落ちた。


 そこに、領主が駆けつける。


「……被害は」

「人命は無事です」

「それで十分だ」


 その言葉に、誰も反論しなかった。



 研究者は、領主の前に立った。


「私の責任です」

「違う」


 即答だった。


「許可したのは、俺だ」

「ですが――」

「条件を詰めなかった」


 研究者は、言葉を失った。


 彼は、叱責される覚悟をしていた。

 追放される可能性も、考えていた。


「……罰は」

「ない」


 その答えに、周囲がざわつく。


「ただし」

「……はい」


「次は、監督を置く」

「当然です」


「そして、俺は説明する」



 夕方、城下町では噂が一気に広がった。


「魔法実験で火事だって」

「やっぱりな」

「無能領主、何考えてるんだ」


 誰も、研究者の名前を出さない。

 責任は、自然と領主に向かった。



 夜。


 執務室で、領主は一人、椅子に座っていた。


 従者が、静かに口を開く。


「……よろしかったのですか」

「何がだ」

「責任を、すべて背負うことです」


 領主は、しばらく黙ってから言った。


「任せた以上、逃げない」


「無能だと、言われます」

「だろうな」


 従者は、唇を噛んだ。


「……それでも」

「それでも、ここに残る者は残る」


 領主は、立ち上がる。


 窓の外には、消し跡の残る黒い地面。


「無能と呼ばれる理由は」


 一度、言葉を切る。


「今日、確かに生まれた」



 同じ夜。


 研究者は、焼け跡の前に立っていた。


「……それでも、やめろとは言わなかった」


 彼は、静かに呟く。


 この領地には、

 失敗を理由に、切り捨てない人間がいる。


 それが、どれほど危険で、

 どれほど救いか。


 まだ、誰にも分からなかった。



本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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