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無能扱いされた領主ですが、部下が優秀すぎて最強領地になりました ~切り捨てない統治は、才能だけを残す~  作者: 山奥たける


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第5話 回復の数字  

数字は、正直だった。


「……改善しています」


 財務担当の文官は、帳簿を閉じてからもう一度開いた。

 見間違いであってほしい、という願いは外れた。


「穀物の誤差は解消。流通の無駄も減っています」

「冬の備蓄も、余裕が出そうか」

「はい。計画通りであれば」


 領主は、小さく頷いた。


「なら、問題ない」

「……本当に、そうでしょうか」


 文官は、思わず口にしていた。



 数字だけを見れば、成功だ。


 倉庫の再配置による効率化。

 人員の最適化。

 無駄な支出の削減。


 どれも、帳簿の上では美しい。


 だが――


「町の反応は、良くありません」


 文官は、視線を落とした。


「配給の遅れは一時的でしたが……」

「不安は残る、か」

「はい。“前はこんなことはなかった”と」


 領主は、何も言わなかった。


 数字が回復しても、感情は回復しない。

 それは、最初から分かっていたことだ。



 昼過ぎ、参謀が執務室を訪れる。


「倉庫の件、完全に落ち着いた」

「そうか」


「だが、評判は落ちた」

「想定内だ」


 参謀は、少し言い淀んでから続けた。


「……本当に、それでいいのか」

「何がだ」


「この領地は、今、綱渡りだ」

「分かっている」


 参謀は、ため息をついた。


「あなたは、数字を信じすぎる」

「信じているのは、数字じゃない」


 領主は、静かに言った。


「数字が示す“限界”だ」


 参謀は、言葉を失った。



 夕方、城下町。


 市場は、いつも通り開かれている。

 品は揃い、値も安定している。


 それでも、どこか空気が重い。


「最近、変なこと多いよな」

「前の方が、気楽だった」


 そんな声が、あちこちで聞こえた。


 誰も飢えてはいない。

 だが、誰も安心していない。



 夜、執務室。


 領主は、魔法研究者から提出された書類に目を通していた。


「……効率向上、か」


 魔力消費を抑える新しい魔法陣。

 理論上は、倉庫や工房の負担を軽減できる。


 紙の上では、完璧だった。


 従者が、そっと声をかける。


「明日から、実験を始めるそうです」

「そうか」


「……立ち会われますか?」

「任せる」


 その答えに、従者は一瞬だけ表情を曇らせた。


 だが、何も言わない。


 この城では、

 任せることが、信頼であり、

 同時に、最大の賭けだった。



 領主は、机に帳簿を置き、目を閉じた。


 数字は、回復している。

 だが、このやり方は――


(続けられるのか)


 答えは、まだ出ない。


 ただ一つ確かなのは、

 次に何かが起きれば、

 もう言い訳はできない、ということだった。



本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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