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無能扱いされた領主ですが、部下が優秀すぎて最強領地になりました ~切り捨てない統治は、才能だけを残す~  作者: 山奥たける


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第3話 追い出された天才

 男は、自分がどこに向かっているのか分からないまま、歩いていた。


 王都を出てから、もう数日になる。

 馬も使わず、目的地も決めず、ただ南へ。


「……辺境か」


 地図の端に記された名を見て、苦笑する。


 かつて、自分が立てた作戦で守った土地だ。

 その功績を称えられることはなかったが、少なくとも“失敗”ではなかった。


 だが、王都はそうは見なさなかった。


 勝ちすぎた。

 被害を抑えすぎた。

 英雄が生まれなさすぎた。


 それが罪になる国だった。


「戦争を終わらせる参謀など、不要だ」


 誰かがそう言った。

 それで話は終わった。



 城門を見上げた時、男は正直に思った。


「……思ったより、まともだな」


 朽ちてはいない。

 警戒も行き届いている。

 だが、威圧感がない。


 門番に名を告げると、すぐに通された。


 しばらくして、執務室に案内される。


 そこにいたのが、この領地の領主だった。


「用件は?」

「仕事を探している」


「何ができる?」

「戦争の計画だ」


 間。


 普通なら、ここで顔色が変わる。

 だが、領主は変わらなかった。


「この領地は、再編の候補だ」

「……知っているのか」


「王都の視察団が来た」


 男は、少しだけ驚いた。


「それで、私を雇う?」

「理由があるなら」


 男は、正直に答えた。


「ここは、長く持たない」

「そうかもしれない」


 否定しない。


 それが、逆に不気味だった。


「なら、なぜ抵抗しない」

「抵抗するには、人が足りない」


「なら、集めればいい」

「集めても、守れない」


 男は、言葉を失った。


 この領主は、状況を理解している。

 そのうえで、派手な手を打たない。


「……無能と呼ばれているそうだな」

「そうらしい」


「それで、納得しているのか」

「今は」


 その“今は”が、男の胸に引っかかった。



 領主は、地図を指し示した。


「戦争が起きたら、どうする?」

「起こさない」


 即答だった。


「起きないように、何をする」

「戦う意味を消す」


 領主は、しばらく男を見つめてから言った。


「この領地は、戦争を起こせない」

「……どういう意味だ」


「起こせば、負ける」


 淡々とした口調。


 だが、それは事実だった。


「それでも、残るか?」

「……条件は」


「命令はしない」

「責任は」

「俺が取る」


 男は、思わず笑った。


「最悪だな」

「そうか?」


「無能な領主の下で、責任だけは重い」

「それでもいいなら」


 しばらくの沈黙。


 男は、深く息を吐いた。


「……分かった。しばらく、ここにいよう」



 その夜、男は城の一室で地図を広げていた。


 防衛線は薄い。

 兵力も少ない。


 だが、補給路は整理されている。

 住民の動線も悪くない。


「……崩れにくい」


 勝てないが、簡単には壊れない。


 それは、戦場では見ない設計だった。


 ふと、昼間の会話を思い出す。


 ――命令はしない。責任は取る。


「……厄介だ」


 だが同時に、奇妙な安心感があった。


 この領主の下なら、

 勝たなくても、守れるかもしれない。


 そう思ってしまった時点で、

 男はもう、この城に足を踏み入れていた。



本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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