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無能扱いされた領主ですが、部下が優秀すぎて最強領地になりました ~切り捨てない統治は、才能だけを残す~  作者: 山奥たける


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第20話 誰も命令していない

 それは、前触れもなく起きた。



 夜明け前、城下町の外れで地鳴りがした。


 古い水路が、崩れた。


 連鎖的に、倉庫裏の地盤が沈み、

 物流路が寸断される。


「……まずいな」


 門番が呟いた時、

 すでに数人は動いていた。



 誰も号令をかけていない。


 だが、配給所には人が集まる。

 倉庫の前では、物が運び出される。


「水路が詰まってる」

「裏道を使え」

「重い物は後回しだ」


 命令ではない。

 相談でもない。


 ただ、必要なことが、必要な場所で起きていた。



 役に立たなさそうな男は、

 いつもの場所に立っていた。


 人の動線が詰まる前に、

 荷をどかし、

 通路を確保する。


 誰も彼に指示していない。

 誰も礼も言わない。


 それでいい。



 参謀は、城壁の上から全体を見ていた。


「……命令が、いらない」


 それは、軍ではありえない光景だった。


 だが、ここでは成立している。



 昼前。


 被害は、最小限で済んだ。


 倉庫は無事。

 配給は滞らない。

 負傷者も、軽傷のみ。


 だが、誰も勝利を祝わない。



 執務室。


 参謀が報告する。


「被害、想定以下です」

「そうか」


 領主は、書類から顔を上げなかった。


「……指示は出されませんでしたね」

「必要なかった」


「それで、ここまで動くとは」

「動ける人間が、残っているからだ」


 それだけの理由だった。



 夕方。


 城下町は、元に戻りつつあった。


 復旧は、静かに進む。


 功績を数える者はいない。

 責任を主張する者もいない。



 夜。


 参謀は、ふと思った。


 この領地は、

 もはや「領主が治めている」のではない。


 **壊れないように、皆が勝手に気を配っている。**


 それを作ったのは、

 命令ではなく、

 長い時間だった。



 領主は、城壁の上に立っていた。


 灯りは少ない。

 だが、消えていない。


「……無能ですね」


 参謀の言葉に、領主は頷いた。


「無能だな」


 否定しない。


 それが、この領地の在り方だった。



本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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