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無能扱いされた領主ですが、部下が優秀すぎて最強領地になりました ~切り捨てない統治は、才能だけを残す~  作者: 山奥たける


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第2話 静かな決定

 王都への帰路、視察団の馬車は重苦しい沈黙に包まれていた。


 誰もが、同じ感想を抱いている。

 だが、それを口にするのは少し遅れた。


「……結局、何もなかったな」


 最初に声を出したのは、年配の貴族だった。


「ええ。整ってはいましたが、あれといった成果も、危機感もない」

「領主自身に、野心が見えない」


 馬車の揺れに合わせて、書類が揺れる。


「数字は悪くない」

「悪くない、というだけだ」


 誰かが鼻で笑った。


 彼らは“問題が起きていない理由”には興味がなかった。

 興味があるのは、成果と失敗、どちらかだ。


「では、評価は?」

「据え置き……いや、下げていい」


 即断だった。


「今後、あの領地はどうなる?」

「再編の候補に入れる」


 その言葉に、誰も異を唱えなかった。


 ――辺境領地、統合対象。

 ――現領主、指導力不足。


 それが、正式な決定となる。



 同じ頃、城では穏やかな午後が流れていた。


 執務室で、領主は一枚の書類に目を通している。


 視察団が残していった簡易報告。

 内容は、予想通りだった。


「評価、低」


 従者が顔を曇らせる。


「……やはり、ですか」

「想定内だ」


「ですが、このままでは……」

「今すぐ何かが変わるわけではない」


 領主は、淡々と言った。


 だが、その指先は、わずかに紙を押さえている。


「再編の話が、進む可能性は?」

「あるだろう」


 従者は、息を呑んだ。


「では、対策を……」

「今は要らない」


「なぜです?」


 領主は、少し考えてから答えた。


「動けば、見える」

「……見える?」

「警戒される」


 従者は、理解した。


 評価が低い今は、まだ猶予がある。

 ここで慌てて動けば、“何かを隠している”と判断される。


「無能だと思われている方が、楽だ」


 その言葉に、従者は返す言葉を失った。



 夕刻、城下町では小さな変化が起きていた。


 商人たちが、噂話をしている。


「王都の連中、来たらしいな」

「ああ。どうだった?」

「さあな。地味だったって」


 笑い声が混じる。


「無能領主、ってやつか」

「でも、税は変わらんし、取引は楽だ」


 誰も褒めはしない。

 だが、誰も逃げもしない。


 それが、この町の空気だった。



 夜。


 領主は、執務室で一人、地図を眺めていた。


 領地の範囲。

 人口。

 物流。


 再編されれば、この線は消える。


「……」


 その事実を、彼は静かに受け止めていた。


 その時、扉がノックされる。


「入れ」


 昼間の魔法研究者だった。


「実験の準備が整いました」

「そうか」


「明日から、段階的に始めたいと考えています」

「問題は?」

「理論上は、ありません」


 領主は、一瞬だけ視線を上げた。


「現場は任せる」

「はい」


「だが」

「?」


「異変があれば、必ず報告しろ」

「承知しました」


 研究者は一礼し、去っていった。


 その背中を見送りながら、領主は小さく息を吐く。


(任せる、か)


 それは信頼ではない。

 だが、他に方法もない。


 この領地を守るために、

 無能であり続けるという選択を、

 彼はすでにしていた。



本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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