第19話 無能の価値
王都では、報告書が積み上がっていた。
成功例と、失敗例。
改革と、破綻。
そのどちらにも、共通点がある。
――速すぎた。
*
「こちらの領地は、三か月で税収を二割改善」
「こちらは、半年で兵站を再編」
会議室で、若い官僚が誇らしげに説明する。
だが、その後に続く資料は、重い。
「……暴動」
「……医療崩壊」
「……指導者、失脚」
成果は早い。
だが、耐えられなかった。
*
年配の官僚が、一枚の書類を指で叩いた。
「では、これはどう説明する」
そこに書かれていたのは、辺境領地の報告。
成果:特になし。
改革:なし。
評価:低。
だが、備考欄にだけ、短い一文がある。
――崩壊なし。
*
「……無能では?」
「無能だな」
誰かが、即答した。
「だが、壊れていない」
「それは、評価に値するのか?」
沈黙。
誰も、はっきり答えられなかった。
*
別の官僚が言う。
「事故もあったはずです」
「小規模だ。
責任者は逃げなかった」
「人も減っています」
「それでも、最低限は維持している」
それは、褒め言葉ではない。
だが、否定しきれない事実だった。
*
「使い道がない」
最終的に、そう結論づけられた。
「英雄にもならない」
「改革者にもならない」
「失敗しても、大きく崩れない」
「……厄介だな」
「だから、放置する」
それが、王都の判断だった。
*
同じ頃、別の領地。
急進的な改革を進めていた領主が、民衆に囲まれていた。
「約束が違う!」
「生活が成り立たない!」
改革は正しい。
だが、人は置いていかれた。
*
そして、辺境領地。
朝は、いつも通り始まる。
鐘が鳴り、
門が開き、
仕事が動く。
派手な号令はない。
だが、誰も逃げていない。
*
参謀は、城壁の上で領地を見下ろしていた。
「……評価されない場所だな」
「そうだな」
いつの間にか、領主が隣に立っていた。
「それでも、残る人間がいる」
「必要だから、残っている」
参謀は、苦く笑った。
「無能の価値、というやつか」
「価値があるかは、俺が決めることじゃない」
領主は、静かに言った。
*
王都では、この領地の報告書は棚にしまわれた。
英雄にならないものは、記憶されない。
だが――
崩れなかったという事実だけは、
消されずに残った。
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