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無能扱いされた領主ですが、部下が優秀すぎて最強領地になりました ~切り捨てない統治は、才能だけを残す~  作者: 山奥たける


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第18話 残ると思った人

 その日、工房の灯りは早く消えた。


 それだけで、参謀は察した。



 魔道具職人は、道具を丁寧に拭いていた。

 いつもより、少しだけ念入りに。


「……珍しいな」


 参謀が声をかけると、男は手を止めた。


「区切りです」

「区切り?」


 問い返す前に、男は頷いた。


「ここを出ます」

「……理由を聞いても?」


 男は、少し考えてから答えた。


「壊れないからです」



 参謀は、言葉を失った。


「ここは、壊れない」

「ええ。だからこそ」


 男は、工房を見回した。


「事故も起きにくい。

 責任も奪われない。

 成果も、奪われない」


「……それ以上に、何が必要だ」

「私には、必要です」


 男は、静かに言った。


「燃え尽きる場所が」



 夜、領主は執務室で書類を見ていた。


 魔道具職人が入ってくる。


「話があります」

「聞こう」


「ここを、出ます」

「そうか」


 即答だった。


 止めない。

 驚かない。


 それが、この領主だ。



「理由は、聞きませんか」

「聞けば、引き止めたくなる」


 男は、苦笑した。


「優しくないですね」

「優しいと思われると、困る」


 少しの沈黙。


「……私は、ここで救われました」

「そうか」


「だからこそ、これ以上いると、

 自分が鈍る」


 領主は、視線を上げた。


 ほんの一瞬だけ。


「それは、理解できる」

「……ええ」


 それだけで、十分だった。



 翌朝。


 門の前で、魔道具職人は荷を背負った。


 見送りは、少ない。


 大げさな別れは、ない。


「……世話になりました」

「こちらこそ」


 参謀が、最後に言う。


「ここに戻る場所はある」

「知っています」


 男は、微笑んだ。


「だから、行ける」



 彼が去った後、工房は静かだった。


 だが、空ではない。


 配線は残り、

 工夫も残り、

 事故の起きにくい仕組みも残っている。


 だが、彼自身はいない。



 夜。


 領主は、一人、帳簿を閉じた。


 また一人、残ると思った人が去った。


 それでも、引き止めなかった。


(守らなかった)


 そう言い換えることも、できる。


 この城は、壊れない。

 だが、人を留める場所でもない。


 無能と呼ばれる理由は、

 ここにも、確かにあった。



ここまでご覧いただきありがとうございます。


あと数話で完結となります。


ブックマークをして、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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