第17話 遅すぎた判断
待つという判断は、
いつも正しいとは限らない。
*
異変は、小さな違和感から始まった。
「……最近、顔色が悪いな」
配給所の前で、誰かが呟いた。
対象は、治癒魔法師だった。
第2章に入ってから流れ着いた人物。
事故の後始末を淡々と引き受け、
誰にも感謝されず、
それでも黙って働いていた。
*
彼女は、無理をしていた。
自覚は、なかった。
傷を癒す。
疲労を取る。
それを繰り返す。
「まだ大丈夫」
その言葉を、何度も使った。
*
参謀は、異変に気づいていた。
「……治癒魔法師の件ですが」
「何だ」
「仕事量が、多すぎます」
「本人は、何と言っている」
「問題ない、と」
領主は、少し考えた。
「なら、様子を見る」
「……はい」
それは、これまで通りの判断だった。
*
翌日。
治癒魔法師は、工房で倒れた。
大事には至らなかった。
命も、失われていない。
だが――
「……もう、魔法は使えません」
医師の言葉は、静かだった。
魔力の枯渇。
回復不能。
*
城の一室。
治癒魔法師は、窓の外を見ていた。
「……ごめんなさい」
「謝る理由はない」
領主の声は、淡々としていた。
「私が、勝手にやったことです」
「そうだな」
否定しなかった。
だからこそ、重い。
*
参謀は、歯を食いしばった。
「止めるべきでした」
「俺が止めなかった」
領主は、視線を逸らさなかった。
「待つという判断は、
正しかったかもしれない」
一拍置く。
「だが、早くはなかった」
*
数日後。
治癒魔法師は、町を出た。
魔法が使えなくなった以上、
ここにいる理由はない。
「……引き止めませんか」
従者が、小さく尋ねる。
「できない」
それが、答えだった。
*
門の前。
彼女は、最後に振り返った。
「ここは、嫌いじゃありませんでした」
「そうか」
「……でも、優しすぎます」
「そうかもしれない」
それだけだった。
*
彼女が去った後、
城は、少しだけ静かになった。
いや――
元に戻っただけだ。
*
夜。
領主は、一人、帳簿を閉じた。
そこには、何も書かれていない。
失われた魔法も、
失われた可能性も、
数字にはならない。
(救わなかった)
救えなかった、ではない。
判断を待った結果、
誰かの未来を削った。
無能と呼ばれる理由は、
この日、また一つ増えた。
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