第16話 役に立たない者
その男は、役に立たなさそうだった。
*
門番が首を傾げたのも、無理はない。
「……仕事を探している?」
「はい」
背は低く、体格も貧弱。
腰に道具はなく、名乗りも簡素だ。
「何ができる」
「特には」
正直な答えだった。
*
男は、元雑用係だった。
王都の施設で、
壊れた物を運び、
汚れた床を拭き、
誰の目にも留まらない仕事を続けていた。
ある日、改革が行われた。
効率化。
役割整理。
成果主義。
最初に消えたのが、彼だった。
*
城に入っても、男は何もしなかった。
いや、正確には
「何かを任されるまで、何もしなかった」。
誰かが呼べば、来る。
頼まれれば、やる。
それだけ。
*
三日目。
参謀が気づいた。
「……あの男、いつも同じ場所にいるな」
「そうか?」
「人の動線だ。
必ず、詰まる場所に立っている」
倉庫前。
工房の出入り口。
配給所の裏。
誰かが困る少し前に、そこにいる。
*
五日目。
魔道具職人が、ぽつりと言った。
「最近、作業が止まらない」
「何か変えたのか」
「いや……邪魔が減った」
誰かが、先回りして物をどかしている。
詰まりを解消している。
目立たず、
名も残さず。
*
夕方、参謀は領主に報告した。
「新参の男ですが」
「どうした」
「……役に立っています」
領主は、顔を上げた。
「そうか」
「評価しますか」
「しない」
参謀は、少しだけ驚いた。
「理由は」
「評価すると、役割が固定される」
「彼は、それを望んでいません」
「……分かっている」
*
夜。
男は、いつものように壁際に立っていた。
誰にも呼ばれない。
だが、誰も困らない。
(……ここは、静かだ)
命令がない。
成果も数えられない。
それでも、
追い出されない。
*
翌朝。
門番が声をかける。
「まだ、いるのか」
「はい」
「仕事は?」
「……あります」
門番は、それ以上聞かなかった。
*
城の灯りは、相変わらず少ない。
だが、消えもしない。
無能と呼ばれる領主の城では、
役に立つ者より先に、
役に立たなさそうな者が、
静かに根を下ろしていた。
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