第15話 抜ける人間
彼は、無駄が嫌いだった。
時間も、感情も、そして――曖昧さも。
*
男は、王都で組織改革に関わっていた。
手順を整え、役割を分け、
成果を数値で示す。
正しさは、いつも彼の側にあった。
だからこそ、ここに来た。
――切られない場所。
――事故が起きても、人を捨てない領地。
だが、数日で気づいた。
ここは、“正しさ”を急がない場所だ。
*
朝。
簡易会議室で、男は参謀に言った。
「人の流入が続いています」
「そうだな」
「管理が必要です」
参謀は、即答しなかった。
「何を、管理する?」
「役割です。責任です。評価です」
理路整然とした言葉。
「秩序がなければ、必ず崩れます」
「……それは、正しい」
参謀は、そう前置きした。
「だが、ここでは急がない」
*
昼前。
男は、領主の執務室を訪れた。
「提案があります」
「聞こう」
「人材を整理し、役割を明確化すべきです」
「理由は」
「効率が悪い」
領主は、少しだけ考えた。
「今は、しない」
「……なぜです」
「急ぐと、残る人間が変わる」
「変えた方が、良いのでは」
領主は、首を振った。
「それは、俺の領地ではない」
男は、言葉を失った。
*
夕方。
男は、城下町を歩いた。
職人たちは、各々のペースで作業をしている。
成果は、見えにくい。
(遅い)
それが、彼の正直な感想だった。
*
夜。
男は、荷をまとめた。
決断は、冷静だった。
(ここでは、成果が遅すぎる)
間違ってはいない。
ただ、合わない。
*
翌朝。
門番が声をかける。
「もう行くのか」
「ああ」
「理由は」
「合理的ではない」
それだけだった。
*
城では、参謀が報告する。
「例の男が、去りました」
「そうか」
領主は、顔を上げなかった。
「止めなくて、よろしいのですか」
「正しい人間は、別の場所で輝く」
参謀は、少しだけ笑った。
*
城下町の外。
男は、一度も振り返らなかった。
彼は正しい。
そして、この領地も、間違ってはいない。
ただ――
同じ速度で、歩けなかっただけだ。
無能と呼ばれる領主の城は、
また一人、
“正しい人間”を手放した。
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