第14話 摩擦
人が増えれば、必ず摩擦が生まれる。
それは争いではなく、
もっと静かで、もっと厄介なものだ。
*
朝の市場。
露店の並びが、少しだけ変わっていた。
「……あれ、あの店、前はなかったよな」
「新参だ」
既存の商人が、低い声で話す。
「最近、外から来る奴が多い」
「事故のあった領地に、よく来る気になる」
言葉は荒くない。
だが、距離はある。
*
元魔道具職人は、その視線を感じていた。
道具を運ぶたび、
値段を交渉するたび、
どこか一線が引かれている。
(……仕方ない)
彼自身、同じ立場なら警戒する。
*
昼前、倉庫前で小さな言い合いが起きた。
「順番が違うだろ」
「急ぎだと言ったはずだ」
声を荒げたのは、新参の職人だった。
「前からいる連中が、優先だ」
「それは、決まりなのか」
「暗黙の、な」
周囲が、気まずそうに視線を逸らす。
*
参謀が、その場を見ていた。
介入すれば、収まる。
だが、それは一時的だ。
彼は、何もしなかった。
*
夕方、城では報告が上がる。
「小競り合いがありました」
「怪我は」
「ありません」
領主は、それだけを確認した。
「なら、様子を見る」
「……調停は」
「しない」
従者が、驚いたように顔を上げる。
「放置すれば、拗れます」
「拗れない形で、解消される」
その根拠を、誰も聞かなかった。
*
夜。
酒場の片隅。
古参の商人が、新参の職人に声をかけた。
「……悪かったな」
「いや」
「事故の後で、皆、神経質だ」
「分かる」
短い会話。
だが、それで十分だった。
*
翌日。
倉庫の前に、簡単な木札が立てられていた。
――受付順。
誰が立てたのかは、分からない。
だが、それで問題は解消された。
*
参謀は、領主に報告する。
「摩擦は、収まりました」
「そうか」
「介入しなかった理由は?」
「介入すると、上下が生まれる」
参謀は、静かに頷いた。
*
城下町は、まだぎこちない。
だが、境界線は少しだけ動いた。
無能と呼ばれる領主の城では、
秩序は命令ではなく、
摩擦の中から生まれていた。
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