第13話 残る理由
男は、残った。
理由は、特別なものではない。
*
彼は、元魔道具職人だった。
王都の工房にいた頃、成果はすべて上に持っていかれた。
名前は残らず、責任だけが積み上がる。
ある日、失敗作の責任を一人で被せられた。
それで、終わった。
*
この領地に来たのは、偶然だ。
噂を信じたわけでもない。
期待もしていなかった。
ただ、切られないと聞いた。
それだけだった。
*
工房は、小さかった。
設備は古い。
資材も限られている。
だが、誰も口を出さない。
(……誰も、成果を聞かない)
それが、最初は不安だった。
*
三日目。
男は、自分から執務室を訪れた。
「領主様」
「何だ」
「工房の魔力配線ですが、非効率です」
「そうか」
「直しても、よろしいですか」
「必要なら」
許可は、それだけだった。
*
男は、配線を引き直した。
劇的な変化はない。
だが、事故の確率は下がる。
誰も褒めない。
誰も驚かない。
それでも――
(……奪われない)
それが、何よりだった。
*
夕方、参謀が声をかける。
「進捗は」
「問題ありません」
「成果は」
「数値上は、微増です」
参謀は、頷いた。
「記録しておく」
「……それだけですか」
「それだけだ」
男は、小さく笑った。
それでいい。
*
夜。
男は、工房に一人残っていた。
灯りの下で、工具を整える。
誰も見ていない。
だが、誰も奪わない。
(……ここなら)
名前はいらない。
称賛もいらない。
ただ、壊れないものを作れる。
*
翌朝。
門番が、男に声をかけた。
「まだ、いるのか」
「ああ」
「いつまで」
「……必要とされるまで」
門番は、少し驚いた顔をした。
*
執務室。
従者が報告する。
「例の職人ですが」
「どうした」
「残るそうです」
領主は、頷いた。
「そうか」
それだけだった。
*
城下町の灯りは、増えていない。
だが、消えもしなかった。
無能と呼ばれる領主の城には、
評価を捨てた者が、静かに根を下ろし始めていた。
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