第12話 居心地の悪さ
男は、三日で気づいた。
ここは、自分の居場所ではない。
*
朝。
簡易宿舎の食堂で、男は周囲を見渡した。
話し声は少ない。
笑い声も、ほとんどない。
だが、空気は張り詰めていない。
誰も、誰かを監視していない。
(……指示が、来ない)
それが、男にとっては異常だった。
*
男は、王都で役人をしていた。
仕事はできた。
評価も、それなりにあった。
だが、上が変わった途端、居場所を失った。
だから、ここに来た。
――切られない場所。
だが、切られないということは、
同時に、引き上げられないということでもあった。
*
昼前。
男は、執務室を訪れた。
「領主様」
「何だ」
「仕事を、いただけませんか」
「今はない」
即答だった。
「……今は、ですか」
「必要になれば、振る」
男は、言葉を失った。
必要になるまで、何もしない。
それは、放置と何が違うのか。
*
城下町を歩く。
商人も、職人も、
自分を特別扱いしない。
「役人様、ですか?」
「元、だ」
「そうですか」
それで終わり。
尊敬も、期待も、ない。
*
夕方、参謀とすれ違った。
「慣れましたか」
「……正直に言います」
男は、足を止めた。
「ここでは、自分の価値が分からない」
「そうでしょう」
参謀は、否定しなかった。
「評価は、どうなっています」
「していません」
「……え?」
「仕事をしたら、結果は残る。
だが、評価として掲げることはない」
男は、胸の奥がざわついた。
評価されない場所。
それは、王都以上に怖い。
*
夜。
男は、荷をまとめていた。
決断は、早かった。
(ここでは、腐る)
努力しても、
爪痕を残しても、
誰も見ていない。
それは、耐えられなかった。
*
翌朝。
門番が、男を見送る。
「もう行くのか」
「はい」
「理由は」
「……合わない」
それだけだった。
*
城では、従者が報告する。
「昨夜の男が、町を出ました」
「そうか」
領主は、それ以上何も言わなかった。
「引き止めなくて、よろしいのですか」
「残らない者は、残らない」
その言葉は、冷たい。
だが、嘘ではない。
*
城下町の外。
男は、一度だけ振り返った。
無能と呼ばれる領主の城。
居心地は、確かに悪かった。
だが――
「……あれは、弱さじゃない」
そう思えたことだけが、
ここで得た、唯一の収穫だった。
そしてその理解は、
彼が二度と戻らない理由でもあった。
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