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無能扱いされた領主ですが、部下が優秀すぎて最強領地になりました ~切り捨てない統治は、才能だけを残す~  作者: 山奥たける


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第12話 居心地の悪さ

 男は、三日で気づいた。


 ここは、自分の居場所ではない。



 朝。


 簡易宿舎の食堂で、男は周囲を見渡した。


 話し声は少ない。

 笑い声も、ほとんどない。


 だが、空気は張り詰めていない。

 誰も、誰かを監視していない。


(……指示が、来ない)


 それが、男にとっては異常だった。



 男は、王都で役人をしていた。


 仕事はできた。

 評価も、それなりにあった。


 だが、上が変わった途端、居場所を失った。


 だから、ここに来た。


 ――切られない場所。


 だが、切られないということは、

 同時に、引き上げられないということでもあった。



 昼前。


 男は、執務室を訪れた。


「領主様」

「何だ」


「仕事を、いただけませんか」

「今はない」


 即答だった。


「……今は、ですか」

「必要になれば、振る」


 男は、言葉を失った。


 必要になるまで、何もしない。

 それは、放置と何が違うのか。



 城下町を歩く。


 商人も、職人も、

 自分を特別扱いしない。


「役人様、ですか?」

「元、だ」


「そうですか」


 それで終わり。


 尊敬も、期待も、ない。



 夕方、参謀とすれ違った。


「慣れましたか」

「……正直に言います」


 男は、足を止めた。


「ここでは、自分の価値が分からない」

「そうでしょう」


 参謀は、否定しなかった。


「評価は、どうなっています」

「していません」

「……え?」


「仕事をしたら、結果は残る。

 だが、評価として掲げることはない」


 男は、胸の奥がざわついた。


 評価されない場所。

 それは、王都以上に怖い。



 夜。


 男は、荷をまとめていた。


 決断は、早かった。


(ここでは、腐る)


 努力しても、

 爪痕を残しても、

 誰も見ていない。


 それは、耐えられなかった。



 翌朝。


 門番が、男を見送る。


「もう行くのか」

「はい」


「理由は」

「……合わない」


 それだけだった。



 城では、従者が報告する。


「昨夜の男が、町を出ました」

「そうか」


 領主は、それ以上何も言わなかった。


「引き止めなくて、よろしいのですか」

「残らない者は、残らない」


 その言葉は、冷たい。


 だが、嘘ではない。



 城下町の外。


 男は、一度だけ振り返った。


 無能と呼ばれる領主の城。


 居心地は、確かに悪かった。


 だが――


「……あれは、弱さじゃない」


 そう思えたことだけが、

 ここで得た、唯一の収穫だった。


 そしてその理解は、

 彼が二度と戻らない理由でもあった。



本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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