第11話 静かな流入
城の門番は、最近、数えるのをやめていた。
人が増えたわけではない。
減る一方だった流れが、止まっただけだ。
だが、止まるというのは――
この領地では、十分に異常だった。
*
朝。
一人の男が、門の前に立っていた。
旅装は古く、だが手入れは行き届いている。
腰には、役人用の印章袋。
「用件は」
「……仕事を探している」
門番は、一瞬だけ城を振り返った。
最近、この言葉を聞く回数が増えた。
「領主様に会うか」
「できれば」
それだけで、門は開いた。
*
執務室。
領主は、いつも通り書類に目を通していた。
「王都を出てきた」
「そうか」
男は、拍子抜けした。
普通なら、理由を聞かれる。
経歴を確かめられる。
だが、この領主は違う。
「何ができる」
「……行政実務です」
「今、人は足りない」
「承知しています」
それで、話は終わった。
男は、その場に立ったまま、次の言葉を待った。
「部屋は空いている」
「……それだけですか」
「それだけだ」
男は、深く息を吐いた。
歓迎されていない。
だが、拒絶もされていない。
その中間が、妙に居心地が悪かった。
*
昼前。
もう一人、城に入ってきた。
今度は職人だ。
「噂を聞いた」
「どんな噂だ」
「事故があったが、誰も切られなかった、と」
門番は、表情を変えなかった。
この領地では、それが事実だ。
*
城下町では、小さなざわめきが起きていた。
「最近、見ない顔が増えたな」
「来たのか?」
「さあ……」
歓迎の声はない。
警戒の視線だけが、静かに交わされる。
*
夕方、参謀が報告する。
「人が、増えています」
「何人だ」
「数えるほどではない」
領主は、頷いた。
「なら、問題ない」
参謀は、少しだけ考えてから言った。
「来る理由は、分かります」
「何だ」
「切られないからです」
「……それだけか」
「それだけです」
領主は、それ以上何も言わなかった。
*
夜。
新しく来た男は、簡易の宿舎で天井を見つめていた。
仕事は、まだ振られていない。
役職も、肩書もない。
(……放置されている)
だが、不思議と不安はなかった。
追い出されない。
問い詰められない。
それだけで、
ここは他と違った。
*
城の外。
灯りは、まだ少ない。
だが、増えるでもなく、減るでもない。
無能と呼ばれる領主の城には、
今日もまた一人、
行き場を失った者が流れ着いていた。
――歓迎されないまま。
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