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無能扱いされた領主ですが、部下が優秀すぎて最強領地になりました ~切り捨てない統治は、才能だけを残す~  作者: 山奥たける


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第11話 静かな流入

 城の門番は、最近、数えるのをやめていた。


 人が増えたわけではない。

 減る一方だった流れが、止まっただけだ。


 だが、止まるというのは――

 この領地では、十分に異常だった。



 朝。


 一人の男が、門の前に立っていた。


 旅装は古く、だが手入れは行き届いている。

 腰には、役人用の印章袋。


「用件は」

「……仕事を探している」


 門番は、一瞬だけ城を振り返った。


 最近、この言葉を聞く回数が増えた。


「領主様に会うか」

「できれば」


 それだけで、門は開いた。



 執務室。


 領主は、いつも通り書類に目を通していた。


「王都を出てきた」

「そうか」


 男は、拍子抜けした。


 普通なら、理由を聞かれる。

 経歴を確かめられる。


 だが、この領主は違う。


「何ができる」

「……行政実務です」


「今、人は足りない」

「承知しています」


 それで、話は終わった。


 男は、その場に立ったまま、次の言葉を待った。


「部屋は空いている」

「……それだけですか」

「それだけだ」


 男は、深く息を吐いた。


 歓迎されていない。

 だが、拒絶もされていない。


 その中間が、妙に居心地が悪かった。



 昼前。


 もう一人、城に入ってきた。


 今度は職人だ。


「噂を聞いた」

「どんな噂だ」

「事故があったが、誰も切られなかった、と」


 門番は、表情を変えなかった。


 この領地では、それが事実だ。



 城下町では、小さなざわめきが起きていた。


「最近、見ない顔が増えたな」

「来たのか?」

「さあ……」


 歓迎の声はない。

 警戒の視線だけが、静かに交わされる。



 夕方、参謀が報告する。


「人が、増えています」

「何人だ」

「数えるほどではない」


 領主は、頷いた。


「なら、問題ない」


 参謀は、少しだけ考えてから言った。


「来る理由は、分かります」

「何だ」


「切られないからです」

「……それだけか」

「それだけです」


 領主は、それ以上何も言わなかった。



 夜。


 新しく来た男は、簡易の宿舎で天井を見つめていた。


 仕事は、まだ振られていない。

 役職も、肩書もない。


(……放置されている)


 だが、不思議と不安はなかった。


 追い出されない。

 問い詰められない。


 それだけで、

 ここは他と違った。



 城の外。


 灯りは、まだ少ない。


 だが、増えるでもなく、減るでもない。


 無能と呼ばれる領主の城には、

 今日もまた一人、

 行き場を失った者が流れ着いていた。


 ――歓迎されないまま。



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