第10話 それでも変わらない
朝は、変わらず訪れた。
鐘が鳴り、門が開き、
城下町に人の気配が戻る。
数は、少ない。
だが、ゼロではない。
*
執務室で、領主はいつも通り席に着いた。
書類の山は、以前より低い。
だが、内容は重い。
「本日の報告です」
従者が、静かに差し出す。
「人口、さらに減少」
「どの程度だ」
「……想定の範囲内です」
領主は、頷いた。
「なら、続ける」
その一言で、話は終わった。
*
参謀が、昼前に訪れる。
「王都の動きが、早まっている」
「再編か」
「ほぼ、確定だ」
参謀は、試すように続けた。
「やり方を変えれば、止められるかもしれない」
「例えば?」
「派手な成果を見せる」
「……無理だな」
即答だった。
「今から演出しても、事故の後だ」
「では、なぜ変えない」
領主は、少し考えてから答えた。
「変えたら、残っている者を裏切る」
参謀は、何も言えなかった。
*
午後、城下町。
人通りは減ったが、
残った者たちは、黙々と働いている。
声高に不満を言う者はいない。
期待もしない。
ただ、ここにいる。
*
魔法研究者が、報告に来る。
「次の実験は、監督を置きます」
「そうしろ」
「……それでも、続けていいのですか」
「必要だからな」
研究者は、深く頭を下げた。
この領地では、
失敗しても、役割を奪われない。
それが、残る理由だった。
*
夕暮れ。
領主は、城壁の上に立っていた。
灯りの数は、確かに減った。
だが、その一つ一つが、はっきり見える。
(守る数は、減った)
それは、事実だ。
だが同時に、
(守る意味は、濃くなった)
そうも感じていた。
*
夜。
執務室で、領主は最後の書類に目を通す。
王都からの通達案。
まだ、正式ではない。
だが、時間の問題だ。
彼は、それを脇に置き、ペンを取った。
新しい書類を書く。
住民名簿。
配置計画。
次の冬の備え。
再編されるかもしれない領地の、
未来の準備だ。
無意味だと、誰かは言うだろう。
だが――
「……それでも、やる」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
無能と呼ばれる領主は、
やり方を変えなかった。
評価が下がっても。
人が減っても。
終わりが近づいても。
なぜなら、この場所は――
才能が、消耗されない数少ない場所だったからだ。
*
城の外。
一人の旅人が、門をくぐる。
痩せた体。
鋭い目。
どこにも、行き場がなさそうな顔。
門番が声をかける。
「用件は?」
「……仕事を探している」
門番は、城を振り返った。
無能と呼ばれる領主の城は、
今日も、静かに人を迎え入れていた。
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