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無能扱いされた領主ですが、部下が優秀すぎて最強領地になりました ~切り捨てない統治は、才能だけを残す~  作者: 山奥たける


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第1話 無能と呼ばれる理由(まだ、なかった)

この物語には、

派手な無双も、分かりやすい成功も、

すぐに報われる努力もありません。


それでも、

失敗しても切り捨てられない場所が、

もし異世界にあったなら――

という話です。


静かに積み上がる物語が好きな方に、

届けば幸いです。

 辺境領地再編の可能性について――。


 王都から届いた一通の文書を、領主は机の上に置いたまま、しばらく眺めていた。


 文面は丁寧で、言葉も柔らかい。

 だが要するに、こういうことだ。


 ――この領地は、重要ではない。


「……なるほど」


 領主は、小さく息を吐いた。


 不満も怒りもない。

 ただ、少しだけ胸の奥がざわついた。


(このやり方で、本当に守れるのか)


 その考えは、すぐに振り払った。


 考えても仕方がない。

 今できることを、今やるだけだ。



 朝の執務室は、相変わらず静かだった。


「以上が、今月の報告です」


 文官が書類を差し出す。


「……ふむ」


 領主は目を通し、頷いた。


「特に問題は?」

「……ありません」

「なら、以上だ」


 文官は、一瞬固まった。


「ええと……ご指示は?」

「必要になったら出す」


「今は?」

「今は、問題がない」


 文官は、困ったように一礼して下がった。


 廊下に出た瞬間、小さく呟く。


「……やっぱり、何もしないな」


 それが、この城のいつもの朝だった。



 昼前、王都からの視察団が到着した。


 立派な馬車。

 豪奢な服装。

 期待と失望が入り混じった視線。


「こちらが領主殿か」


「ああ」


 形式的な挨拶を交わし、城内を案内する。


 訓練場。

 倉庫。

 執務室。


 どこも整っているが、派手さはない。


「改革の予定は?」

「今のところは」


「戦力増強は?」

「必要なら」


 歯切れの悪い答えに、視察団の表情が曇る。


 領主は、それを見ても弁明しなかった。


(見せないことを、選んでいる)


 その選択が、どう評価されるかは分かっている。


 だが、今はそれでいい。



 視察団が去った後、城は再び静けさを取り戻した。


 執務室の隅で、見慣れない男が立っていた。


 旅装。

 魔法研究者の証。


「……異端だと聞いている」


 領主は言った。


「危険だとも」


 男は、少しだけ肩をすくめる。


「理論上は安全です」

「理論上、か」


「実験には許可が必要でしょうか」


 領主は、一瞬考えた。


「好きにやっていい」


 男の目が輝く。


「ただし」

「はい?」


「危険が出たら、止める」


 それだけだった。


 研究者は深く頭を下げる。


「感謝します」


 彼が部屋を出た後、従者が不安そうに口を開いた。


「……よろしいのですか?」

「何がだ?」

「あの者、扱いづらいと聞きます」

「だろうな」


「事故が起きたら……」

「その時は、俺の責任だ」


 従者は、それ以上何も言えなかった。



 夕方。


 城の外れで、小さな光が瞬いた。


 魔法陣。

 実験の準備だろう。


 領主は窓からそれを見下ろし、ほんの一瞬だけ眉を寄せた。


(任せる、か)


 それは信頼ではない。

 危険を引き受けるという選択だ。


 だが、その重さを、彼はまだ正確には測れていなかった。



 その夜、城下町はいつも通り静かだった。


 人々は知らない。


 この城の在り方が、

 この領主の判断が、

 いつか「無能」と呼ばれる理由になることを。


 ――まだ、その時ではなかった。



本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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