衝撃的な姿
前のふたつの書き直し。
美術部の部室に忘れ物を届けに来た、それだけだった。
ガチャリとドアを開けた瞬間、思考が止まった。
「……へ?」
そこにいたのは、冬城司。
ただでさえ無口で冷静、無駄に完璧なその人が――
何の躊躇もなく、上半身どころか何も着ていなかった。
そして、その前で夢中でスケッチブックを走らせる絵狂いの友人・水無月が、こちらをチラと見て、平然と言った。
「静かに。今ちょうど背中の曲線に入ってる」
「いやいやいやいやいや、静かにじゃねぇよ!!!」
つい叫んだ私は、あまりの衝撃でドアを閉めた。数秒、呆然としたまま立ち尽くしてから――友人に連絡を飛ばした。
“今、美術部で冬城くんがフルヌードでモデルしてる。意味が分からん。助けて。”
すぐに駆けつけたのは、ツッコミ担当の友人・七瀬。
「おっせーな、何があったんだよ? って、マジで裸じゃん!!!」
「でしょ!? おかしいよね!? あれおかしいよね!?」
「いやおかしいってレベルじゃねぇよ!? 絵描きのアイツ、何考えてんの!?」
再び部室の中を覗けば、変わらず真剣に筆を走らせる水無月と、まるで石像のように微動だにしない冬城司。
むしろ二人とも、周囲のざわつきなど一切気にしていない。
七瀬が思わず声を上げる。
「おい冬城!おまえ、恥ずかしくないの!?」
すると冬城は、わずかにこちらを見て、低い声で答えた。
「頼まれたからな。問題ない」
「問題あるわ!!! そもそもその頼み、どうかしてんだよ!!!」
水無月が筆を止めずに、さらりと返す。
「肉体のラインを忠実に描くには、布が邪魔なんだよ。冬城の骨格は極めて美しい」
「その美学を人前でやるなあああああ!!!」
私も七瀬も叫んだ。
けれど当の本人たちは、まるで呼吸をするように自然だった。
そこに羞恥も緊張もない。ただ、**極めて冷静な“制作”**が行われているだけだった。
……いやいやいや、やっぱりどうかしてる。