着たきゃ着るだけだろ?
その男、冬城 司は、学年でも一目置かれる存在だった。
長い黒髪に鋭い目。無駄な言葉は話さず、常に冷静沈着。
制服の着崩しすらしない堅物で、「鋼の騎士」なんてあだ名まで付けられてる。
女が優位なこの世界で、男にしては珍しく威圧感をまとっていた。
女子のほうが一歩引くくらいのオーラを持つ、まさに“例外”。
──だから、誰も想像していなかった。
文化祭当日。
演劇部の『幻想舞踏会』と銘打たれた出し物で、彼が堂々と舞台裏から現れたその瞬間。
その場にいた全員の思考が止まった。
「……え?」
彼が着ていたのは、上半身を大胆に開いたフリルシャツ。
胸元までボタンを開けて、すらりとした鎖骨と胸筋が覗いている。
黒いレザーパンツはぴったりと張り付き、足のラインが丸見えだ。
そして極めつけにヒールのあるブーツを鳴らし、すっ……と優雅に歩み出た。
その姿は艶やかで、まるで男娼のように……いや、それ以上に“堂々としていた”。
「冬城くん!?え、ちょっと……あの人、何してるの……!?」
「え、え?ノリで着せられたんじゃ……え?自分で選んだって……ウソでしょ!?」
ざわめく控え室。
絶句する女子たちの間を、冬城は何も気にする様子もなく通り抜ける。
「……衣装決め、遅れてたから勝手に選んだ。見たきゃ見ればいい」
その一言だけ残して。
驚いたのは舞台だけじゃなかった。
教室を練り歩くパレードの時間にも、彼はそのままの格好で現れた。
写真係の女子が手を震わせながらシャッターを切り、保健委員の子が顔を真っ赤にして逃げ出す。
「や、やばい……なにあの腹筋……」
「こんなの反則だよ……なんで堂々としてんの……」
「ギャップで脳が焼ける……!!」
誰かが「騎士じゃなくて堕天使だったのかよ……」とつぶやいてた。
そのくらい衝撃だった。
だが本人は、終始冷静。
露出を煽るわけでも、見せびらかすでもなく、ただ自然体でそこにいる。
──そう、“それが普通”という顔で。
「着たきゃ着る。別に、誰かに許可なんていらない」
それが、冬城司という男の“本性”だった。